国際電子出版EXPO行ってきました

 ビッグサイトで開催中の第16回国際電子出版EXPOに行ってきましたので、今回はプチレポートです。私が行った水曜の午前中には国際講演が行われ、それももちろん聞いてきたのですが、すでに新聞やニュースで大きく取り上げられており、個人ブログで改めて書いても仕方がありませんので、会場で見てきて個人的に面白いと感じた製品をいくつかレポートしてみたいと思います。

FUJIFILM 「GT-Layout」

 FUJIFILMさんがコミックの電子化等の製品開発にかなり前から取り組んでおり、画像処理の自動化まわりなどで精力的に製品発表をされていたのは知っていたのですが、私の所属している会社のような文章物の制作をメイン業務にしている会社にとってはこれまで今一つ直接的なニーズのありそうな製品はありませんでした。
 ただ、今回展示されていた「GT-Layout」という技術は、スキャンして1ページまるごと1画像になっている文書を、自動処理で1文字ずつバラバラの外字にして並べ替えることで疑似的にリフローを実現するというもので、完全に「こっちの領域」の技術です。発想にちょっと目から鱗が落ちました。技術的にはOCR技術を自動テキスト化処理ではなく、画像内の文字位置の特定に使っているとのこと。力技ですが確かにそれなら文字化けはなさそうです。

 この技術は今のところまだクラウドサービス「Dropbox」内に放り込んだ画像ファイルや各種オフィス文書を、Androidスマートフォン上で快適に読むためのアプリ「GT-Document Lite for Dropbox」内でのみ使用できるようなのですが、もしこれがEPUB制作アプリ等と連携して使えるようになれば、例えば緊デジで制作されたフィックス型の電子書籍のうちかなりのものを、比較的簡単に疑似リフロー型にコンバートすることが可能になってきます。

 また、印刷会社が保有している製版フィルム等のスキャン画像から、全文校正の手間なしにリフロー型電子書籍を制作することも視野に入ってきます。私の所属している会社に保存してある製版フィルムには、活版印刷の時代に組版されたものをフィルム化して保存してあるものなども多数含まれるのですが、これらはそもそもテキストデータが存在しないため、リフロー型電子書籍にするためには、本来全文の再テキスト入力・校正が必要になってきます。これがコスト面の壁になって電子書籍化できないコンテンツはおそらく多数あります。「GT-Layout」の技術によってこれらのフィルム類も手軽に疑似リフロー型電子書籍にコンバートでき、スマートフォン等で快適に読めるようになるとすれば、「長期休眠コンテンツの価値再発見」にもつながってくる福音になり得ます。

「GT-Document Lite for Dropbox」画面

「GT-Document Lite for Dropbox」画面

 ちょっと現時点でどこまでのことが可能なのか気になったので、軽くテストをしてみました。新書横組みを想定した文書をInDesignで制作し、PDFで書き出したものをDropboxに放り込んで「GT-Document Lite for Dropbox」で開いてみます。なるほど、ちゃんとリフローしているようです。アルファベットが単語の途中で切れてしまっていることや字詰めなど気になる部分はあるものの、バックグラウンドでやっていることを考えるとすでにかなり完成度が高いと言えそうです。縦書き単行本のスキャン画像はエラーが出てリフローできなかったのですが、これはちょっと処理する文字量が多すぎたのかも知れません。「GT-Document Lite for Dropbox」自体はオフィス文書のビューアであることを考えれば致し方ないところです。電子出版EXPO会場では縦書きのデモサンプルがすでにあったことを付記しておきます。FUJIFILMの方にお聞きした話ですとまだルビまわりの処理などが完全ではないとのことだったのですが、正直かなり有望な技術だと思えるので、是非今後に期待したいところです。なんでも当面は「虫眼鏡のようなツール」としてユーザーの自己責任で使ってもらう方向を考えているとのことです。個人的には早くiPhone版が見たいです(笑)。

モリサワ 「MCBook」

 モリサワさんの電子書籍制作ソリューション「MCBook」は私も使ったことがあり、いくつかデモサンプルを作成しているのですが、もともと成果物の完成度という点ではピカイチだと感じていました。組版エンジンの柔軟さからくる画像の回り込み処理、キーワードをタップすることで呼び出せる注釈ウィンドウ、それになんといってもモリサワフォントの綺麗さが際立っていました。ただ、当初iOS用のアプリ型としてスタートした経緯からくるAppleとの契約の煩雑さや、独自タグ形式だったことが災いして、今一つメジャーにならなかった感があります。正直「このビューアでEPUB3見られたらなあ」とは思っていました。

 今回は、前バージョンで対応していたMCBookからのEPUB3書き出しに加え、ショップ向けソリューション「MCBook EPUB ビューアライブラリ」と連携することで書き出したEPUB3をストアで取り扱えるようになったことで、ほぼ「EPUB3対応」を謳える形になったようです。フォントやDRM対応を組み込み、専用ビューアを提供することで組版レイアウトの品質を保証する統合型サービスとして魅力的な存在になってきたと言えます。

 ただし、MCBookそのものからはDRMを含まないEPUB3のデータを書き出せるものの、「MCBook EPUB ビューアライブラリ」で扱えるEPUB3に関してはDRM組み込みがセットになっているようです。そのため成果物のEPUB3ファイルそのものの後修正は基本的に不可能で、修正の際にMCBookの書き出しもとファイルが必要になります。数年後に修正指示が入った場合、手元にMCBookのファイルが残っていなければ修正不可能になってしまうわけで、EPUB3の魅力のひとつであるプロプライエタリなフォーマットに依存しないオープン性をスポイルしているとは言えそうです。ただ、そこは統合型サービスならではの品質の高さの保証とのトレードオフになるのかなとも思います。そのあたりを割り切って使う「売り切り型贅沢コンテンツ向き」といった位置づけになるのではないでしょうか。

ボイジャー 「BinB」

 電子書籍の老舗、ボイジャーさんが昨年12月にスタートさせたWebブラウザだけで利用できる電子書籍配信サービス「BinB」がだいぶブラッシュアップされてきていました。当初はいまいち速度的に遅くイライラ感があり、いまひとつ魅力が伝わりにくい状態だったのですが、WebフォントのダウンロードでWindows XPなどの旧環境でもかなり綺麗な文字で読めるようになっており、電子出版EXPO直前に家でチェックした時には「これなら十分読めるな」と感じました。正直無線環境の整った場所でiPad等で読む分にはもうアプリ型電子書籍と大差ないのではないかと思います。だいぶ「Web閲覧環境があってIDとパスワードを覚えていさえすればどこでも読める」というBinBサービスのメリットが感じられるようになってきたのではないでしょうか。あとはラインナップですが、本家BinBストアにリイド社のコミックが入った他、「Yahoo!ブックストア」BinBのエンジンが採用されたとのニュースもあり、どうやらコミック分野でかなりの存在感を持ってきそうです。

 もともとBinBの「Webブラウザを利用してクラウド上のコンテンツを閲覧させる」というモデルは、読者の手元にパッケージがダウンロードされないため重DRMに頼らなくても違法コンテンツの流通を抑制しやすい側面があり、コミックなどのライトコンテンツには合っているのではないかと思っていました。ここにきて予測が当たった形で、少し嬉しく思います。

 といったところです。1日だけでしたので、興味はあっても回りきれなかったブースがたくさんあります。土曜日にブックフェアには行く予定なのですが、国際電子出版EXPOは金曜日閉幕・・・。まあ楽天koboの実機が触れそうなので楽しみではあります。今回はとにかく全体としてかなりの熱気を感じました。これが電子書籍の普及にストレートに繋がることを心から祈りたいです。

(2012.7.6)

※当初MCBookからはDRM付きのEPUB3しか書き出せないといった記述をしてしまったのですが、MCBookそのものからはDRMの含まれていない汎用のEPUB3も出力できるとのことです。失礼いたしました。謹んで修正させていただきます。

(2012.7.6追記)

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プロフィール
Jun Tajima

こちらにて、電子書籍&Web制作を担当しています。
このブログは、EPUB3をはじめとした電子書籍制作担当オペレータからの、「電子書籍の制作時にたとえばこんな問題が出てきていますよ」的な「現地レポート」です。少しでも早い段階で快適な電子書籍閲覧・制作環境が整うことを願って、現場からの声を発信していこうと目論んでおります。

当ブログ内の記事・資料は、私の所属しております組織の許諾を得て掲載していますが、内容は私個人の見解に基づくものであり、所属する組織の見解を代表するものではありません。また、本ブログの情報・ツールを利用したことにより、直接的あるいは間接的に損害や債務が発生した場合でも、私および私の所属する組織は一切の責任を負いかねます。

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