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テキストエディタmiがバージョン3.0でかなり機能強化されていた

2018/06/25

 EPUBを作るためにフリーのmac用テキストエディタ「mi」(旧ミミカキエディット)のバージョン2.1を愛用していたのですが、そろそろOSのバージョンが上がってきて64bit対応しなければならないのが見えてきたので正式リリースバージョンの出ていたバージョン3.0を試したところ、かなりの機能強化がなされていたようなのでちょっと紹介です。以下新機能や前からあったけれど良いなと思っている機能を箇条書きで。

1.タブセットを保存

タブセットを保存

タブセットを保存

 miはもともとタブ表示機能を持っていたテキストエディタでしたが、3.0で開いていたタブの情報を保存しておけるようになったようです。作業切り替え時などに混乱を防ぐために開いていたタブを一旦閉じざるを得ないことはよくあるので有難いかも。

2.ファイルパスをコピー

ファイルパスをコピー

ファイルパスをコピー

 地味だけど現在開いているファイルのパスをコピーできる機能が追加。コード書いている時などにターミナルで動作テストはよくやるので有難いかも。

3.強化された検索置換機能

強化された検索置換機能

強化された検索置換機能

 検索置換関係が相当機能強化されている様子。一度設定した検索置換セットを「検索メモリー」機能で名前を付けて保存しておけます。スゴい便利そう。それから置換テーブルを別ファイルで用意して一括置換もできるようになったようです。また、「一致テキストを新規ドキュメントに抽出」などという機能も見えます。正規表現もドロップダウンメニューから選んで入力できるように。

4.マルチファイル検索/マルチファイル置換

マルチファイル検索

マルチファイル検索

マルチファイル置換

マルチファイル置換

 miには2.1からマルチファイル検索の機能がありましたが、3.0でマルチファイル置換の機能が加わって強力になりました。一度マルチファイル検索を実行してから置換対象ファイルを選んで置換を実行する形なのもうれしい感じ。置換実行前にファイルをバックアップなどという機能もあって至れり尽くせり。この辺の機能でうっかりミスをやらかすと悲劇が待ってますからね。

5.コードの折りたたみ表示

コードの折りたたみ表示

コードの折りたたみ表示

 コードの折りたたみ表示にも対応したようです。長めのスクリプトを書くときに全体の見通しが良くなりそう。

6.見出しリスト

見出しリスト

見出しリスト

 見出しをリスト表示してクリックでジャンプ。まあこれは2.1からあった機能なんですが便利なので紹介。EPUB用のXHTMLとかだとかなり長めのテキストを編集することになるので見出しで飛べるのは有難いです。

7.テキストの比較

テキスト比較

テキスト比較

 いわゆるdiff機能ですがかなり機能強化されたようで「ファイルと比較」「クリップボードと比較」などの機能が増えたほか、設定すればgitやsubversionとの連携もできるようになった模様です。

8.モード機能

モード機能

モード機能

モード編集画面

モード編集画面

 miと言えば「モード」機能が強力無比です。自分で「モード」を作ってよく使うタグコマンドなどを簡単に入力できるようにし、特定の用途用の専用エディタに仕立て上げることができます。ショートカットもカスタマイズできますし各種スクリプトも仕込めるのでまあ相当なことができるわけです。私はこんな感じで使ってます。

9.縦書きモード

縦書き表示の対応

縦書き表示の対応

 今回から縦書き表示にも対応したようです。設定すれば原稿用紙風の表示も可能。簡単なワープロ代わりとしても使えるようになってきた感じでしょうか。

10.サブ画面表示

サブ画面表示

サブ画面表示

 画面を左右2分割して参照テキストを表示しながら編集できるようになりました。CSSファイルを開いてクラス名を確認しながらXHTMLを修正するなどのシーンで威力を発揮しそう。

11.ビューの縦分割

画面分割表示

画面分割表示

 編集中のテキストの縦分割表示もできます。同一ファイル内でのコピー&ペースト作業は日常的に発生するので有り難いかと。

12.単語の自動ハイライト

単語の自動ハイライト

単語の自動ハイライト

 個人的にスゴいなと思ったのがコレ。カーソルを置いた場所を含む単語を自動識別して同じ単語をリアルタイムでハイライト表示します。挙動を見る限りではどうやら形態素解析まではやっていないようで、連続する漢字/カタカナ/ひらがな/英文字を識別しているだけのようですがまあ挙動も軽いしそれで必要十分な感じ。ナチュラルに修正の見落としが減りそうで素晴らしいです。

13.テキストハイライトパレット

テキストハイライト表示

テキストハイライト表示

 特定の単語を指定してハイライトさせることもできます。「テキストハイライト」パレットに単語を登録してやればOK。ハイライト単語リストを複数登録しておいて切り替えて表示させることもできるようです。

14.テキスト情報パレット

テキスト情報

テキスト情報

 「テキスト情報パレット」で、特定の文字のUnicode値などを気軽にチェックできるようになりました。これ個人的にはとても嬉しいです。macOSの以前のバージョンではmi等でテキストを選択してATOKの文字パレットを開くとコードポイントがチェックできていたのですが、バージョンアップで出来なくなってしまっていたので。

15.プレビューパレット

プレビュー表示

プレビュー表示

 今回からXHTMLなどの表示結果をプレビューモードで見ながら編集できるようになりました。縦書き表示の結果もきちんと反映されていましたので、そこまで凝ったレイアウトでもなければ十分役に立ちそうです。

 どうでしょうか。なかなか山盛りの機能追加で見ていて嬉しくなって来てしまいます。これがフリーウェアで本当にいいのかという感じ。触れる環境にある方はぜひ試してみてください。

(2018.6.26)

出版社公式ページのSNS対応状況を調べてみた

2018/06/06

 最初に書いておきますが、今回は電子書籍の話というわけではなく紙本と電子本をひっくるめた「販売プロモーション」の話ですので悪しからず。
 今時のWeb対策としてSNSへの最適化が叫ばれて久しいですが、出版社の公式サイトはどうなっているのかなと思ってちょっと調べてみました。調査内容は

  • 各商品ごとに個別のページになっているか
  • ページ内に書影画像があるか
  • ソーシャルシェアのボタンがあるか
  • Facebookで書影が表示されるか
  • Twitterで書影が表示されるか
  • ネット書店へのリンクがあるか、対照ストア数はいくつか
  • 電子版の販売ページへのリンクがあるか、対照ストア数はいくつか
  • 試し読みができるか

 です。なお、書影画像の表示に関してソーシャルシェアのボタンがない場合はFacebookやTwitterの投稿にURLをコピーして貼り付ける形で調査しました。ある程度名の通った出版社のみが対象で、かつ商品1点のみで調べていますので、だいぶざっくりとした精度の粗い調査結果であることはあらかじめご承知おきください。

調査結果は以下の通りです。

https://docs.google.com/spreadsheets/d/e/2PACX-1vQ9tvIAd7Ejwy_7n_XtfclDBMY1vp8-007T-1FU6HoOEHiUNUlO8hYUl3zYdYCvIN6hNzoCxHZpWAE_/pubhtml?gid=0&single=true

書影の表示されない設定になっているサイトが多数

 まあ予想内だった部分と、案外ちゃんとしていた部分が入り交じっている感じでしょうか。

 まず、さすがにと言うべきか、商品ごとに独立したページになっており、かつ書影画像が貼られているところまではどこの公式サイトもできていました。これはまあある程度名の通った出版社のみを対象にした以上、わかる話です。ただ、ソーシャルシェアのボタンがないケースは何社かありましたし、Facebook、Twitterで書影が表示されない設定になっているケースはかなり多く見られました。書影は各ページ内のメタデータ(OGP)でパラメータを指定しておくことで表示させることができますが、その設定がされていないということです。

 いわゆる最大手の一角の公式サイトが全くそのあたりを考慮していない作りなのはちょっと驚きでした。おそらくSNS経由での情報拡散に重きを置いておらず、自社公式チャンネルからのマス的な拡散を考えているためでしょうが、ちょっともったいない話かなとは思います。例え大手出版社といえども、全ての作品を対象にマス的プロモーションはできないはずですので。
 総じて、まだまだ出版社公式サイト発のSNS情報拡散施策は不十分なところが多々見られるというところでしょうか。

誰もが情報を発信できる時代

 なぜSNS経由での情報拡散が重要なのか。これは「今はもう誰もが情報を発信できる時代」だということに尽きるでしょう。Webはメディアとして2004年から2005年ぐらいにかけて圧倒的な勢いで伸び始め、今や媒体別広告費で見て雑誌や新聞を遙かに追い抜いてテレビに迫ろうという勢いなわけですが参考、この勢いを生んだのがブログやSNSといった「技術を知らない個人でも気軽に情報拡散ができる仕組み」で、これがいわゆるWeb2.0と言われる動きでした。今やFacebookの月間アクティブユーザー数は全世界で20億人を突破しており、もはや完全にインフラとなって久しいと言えるでしょう。

 つまりすでに誰もが気軽に著作権法で言うところの「公衆送信」ができるわけで、ほんの20年前まで到底考えられなかった事態が起きているわけです。ある意味もう出版社や放送局などの既存メディアと個人との間に差はないとも言えます。もちろん組織として多人数で動かなければ作れないものは存在しますので、そこには既存メディアの優位性があるわけですが。
 出版や放送といった既存メディアがこの動きに警戒を示してきたのはまあ理解はできます。マーケットシェアを奪う動きに見えたでしょうから。ただ「もう意地を張っていてもどうにもならない」というのが正直なところでしょう。敵に回すのではなく味方につけなければいけません。今やSNSでの情報流通は雑誌など比較にならない量とそれに伴う力を持っているのです。

従来は書店の書棚が「プロモーション」の機能を担ってきた

 ではこれまでなぜ出版社は結果としてSNS経由を始めとしたWebマーケティングを軽視してきたのでしょうか。これは従来の出版の水平分業的業界構造に起因するところが大きいと考えます。
 従来出版社が印刷会社などに発注して製造された本は、これまで出版取次の流通システムを通じて全国の本屋に配送され、一定期間の店頭展示販売を経た上で回収されて断裁処分されていました。つまり書店での面陳や棚差しによって一定期間顧客の目に触れ、それによって商品が購入できる状態にあることが認知されて一定数の売り上げに繋がっていたわけです。書店による本との出会いの場の提供。これこそが従来型の「本の販売プロモーション」でした。
 もちろんそれ以外に、例えば書店での発売記念サイン会などのイベントや新聞などへの広告掲載はあったわけですが、あくまでスポット的な動きに止まっていたと思います。決して全ての本を対象にやれていたわけではありません。ウラを返せばざっくり言って出版社の仕事は従来「本を作って取次に引き渡すところまで」で、そこから先は取次、書店といった下流のネットワークによってプロモーション含む販売の仕組みが維持されてきたということになるでしょう。

 ただ、今はもう書店の床面積はどんどん減りつつあり、それに準じてプロモーションの機能も漸減していると見なければならない状態です参考。これが起きている直接的な原因は書籍と言うよりは雑誌の販売不振なのですが、とは言えこの状況が長く続けば「本を買って読む」習慣は失われ、書籍の売り上げも恒常的に減ることになっていくでしょう。いや、もうそうなっていると見た方が良いかもしれません。

書店の書棚の機能を補完するためのWebプロモーション

 書店の書棚面積は減りつつあり、今後も当面増加に転じることは無さそうです。これによって本が顧客の目に入って実際に購入される機会も減っていきます。これまでは書店に行って新刊の棚を適当に見渡し、面白そうな本があれば買って帰るというエコシステムによって維持されてきた売り上げが消えつつあるわけです。それがなくなればだいぶ酷いことにはなりそうなのは容易に想像がつきます。
 つまりそれを補完するためにこそSNS対策などのWebでの販売プロモーション対策が急務になって来ているわけです。書店の書棚で告知できなくなりつつあるのならば、他の手段で告知を補完してやらなければなりません。そして今最もコストをかけずに広く情報を広げる手段が「Web」なのは異論のないところでしょう。

 しかしこれは出版社の仕事ではあっても「編集者」の仕事ではなく、おそらく「営業」もしくは「広報」の仕事になると思います。しかも従来の出版社の営業部や広報部の仕事でもなく、全く新しいタイプの業務になりそうです。これは新聞のスポット広告対応などのB2B業務ではなく一般顧客向けのB2C的な業務の話になるためです。そこには従来存在しなかった部署を設置する経営判断が必要な難しさがあります。
 だからこそ長きにわたる水平分業体制の維持によってその機能を持つ必要がなかった出版社は対応が難しかったわけですが、とはいえもうそんなことも言っていられないのは前述の通りです。読者にしてみれば、「本が出ていることを知らなければ買うというアクションに移りようがない」わけですから。

SNSでの情報拡散タイミングは制御しづらいが・・・

 Facebook、TwitterなどのSNSで読者によって行われる本の情報拡散、紹介はそれが起こるタイミングを出版社側が厳密に制御することはとても難しいと思います。ただ、発生確率を上げることはできるでしょうし、拡散が起きた際にその効果を最大化する施策は打っておくべきでしょう。

 発生確率を上げるという意味ではソーシャルシェアのボタンを設置してあるかどうかは大きな差になりそうです。URLをコピーしてFaceBook等の投稿画面に貼り付けるという操作はそこまで難しいわけではもちろんありませんが、ソーシャルシェアボタンからの書き込みに比べれば多少なりとも面倒なのは事実です。そこには頻度の差がでてくるでしょう。
 さらに、公式ページ内で内容を簡単に確認してもらい、紹介する気を起こさせると言う意味で試し読みも大事です。これはいわば書店店頭での立ち読みの代替ですから、もっと普及すれば良いと考えます。

 また、拡散の効果を最大化する意味で、FaceBookやTwitterの投稿に書影写真が載るのは当然とても大きな意味があるでしょう。文章だけの簡単な紹介ではタイムライン上で目立ちませんのでさっくり流されて終わりになる場合がほとんどでしょうが、書影写真が入っていれば否応なしに目を引くのは間違いないと思います。

 その上で、いざ買おうという気になった際に簡単に販売ページに行き着ける作りになっていることも大事で、そういう意味で販売ストアへのリンクも必要でしょう。まあより料率の高いストアへの誘導という意味で自社サイトには直売ページへのリンクだけを貼るという考え方もあるでしょうし、必ずしも多数の販売ページにリンクさせることが正解とも限らないとは思いますが。

 さて、最後にちょっと電子書籍についても触れておきます。これまで、「電子版は出しても全く売れない、出す必要がない」という趣旨の意見を多く目にしてきました。実際特にエンタメ以外で数が全然出ていないことは間違いなく事実としてあるのでしょう。売れない原因はいろいろと考えられはしますし、品質がまだ低すぎるという話もありそうではあります。ただ、実は一番の原因は今回取り上げたことに通じる「電子版が出ていて買える状態にあることが読者に十分に伝わっていない」というところにあるような気がしてなりません。読者が存在を知らなければ購入というアクションが起こりようがありませんから。

 Amazonを初めとした販売ストアは商品を受け入れて購入可能な状態にはしてくれますし、読者側が商品名を知っていて検索して買う分にはとても便利です。しかし彼らは書店の書棚に相当するような潜在顧客へのプロモーション機能を持っていませんから、なにもしないで放っておいても(潜在的には買われる可能性があった)本が売れるわけではありません。そこは従来の書店とは決定的に違うのです。将来的にVR/ARなどによって仮想空間内で見渡せる面積が書店の書棚並みに広がり、各顧客に合わせて最適化されたリコメンデーションの技術がより発達すれば話は違ってくるかも知れません。ただ少なくとも今現在は「販売者側が読者に対して商品を認知させるアクションを取ることが必須」で、これをしなければ今は売れなくて当たり前です。
 出版社がこのあたりの役割を担えればもちろんよいのですがまだまだそういった意識は希薄なようで、「自らプロモーションができる著者でない限り電子は売れない」という話になってきているように思います。この状況が長く続けば必然的にそういった業務を著作に集中したい著者に代わって請け負う「エージェンシー」が登場してくることになるでしょうが、この先どうなってゆくのかしばらく注視が必要かなと思います。

(2018.6.7)

プロフィール
Jun Tajima

こちらにて、電子書籍&Web制作を担当しています。
このブログは、EPUB3をはじめとした電子書籍制作担当オペレータからの、「電子書籍の制作時にたとえばこんな問題が出てきていますよ」的な「現地レポート」です。少しでも早い段階で快適な電子書籍閲覧・制作環境が整うことを願って、現場からの声を発信していこうと目論んでおります。

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