EPUBの校正を考える
2015/12/15 DTPデータからEPUB3データを作る際に避けて通れないのが、EPUB3データの校正作業です。もとのデータにあったテキストブロックや画像が飛んでしまっていてはコンテンツとして意味をなしませんし、制作過程においてルビや圏点、太字などの修飾要素が飛んでしまったり、縦組みで正立していた文字が横転してしまったりという事態も避けなければなりませんから、もとの紙の本と引き合わせての校正は避けられません。
現状、この目的のための専用定番アプリ的なものはありませんので、既存のものを組み合わせてどうにかするしかありません。
引き合わせ校正を目的とした場合に最適なEPUBビューアの条件
ということで、紙の底本との引き合わせ校正を目的とした場合のEPUB閲覧環境の条件を考えてみます。条件としては
1. 1行文字数をできるだけ底本のそれに合わせられるビューアがよい
2. 間違いがあった箇所をチェックするためのハイライト機能が欲しい
3. 通常のページネーションするEPUBビューアではカラ改行のチェックが難しいため、スクロール型ビューアがよい
4. 底本と横に並べて見比べたいので、タブレットで動くビューアがよい
また、一人でチェックして修正するだけならその場ですぐ修正すればよいので必ずしもハイライト機能は要りませんが、組織で仕事をしている際に他の人に校正を頼むとなると、当然「要修正箇所を他の人に伝達する」機能が必要になってきます。
ページネーションに関しては1にも絡むのですが、DTPの元データで「見出しの前に改行が入っていたり入っていなかったりバラバラ」というのは良く見るパターンですので、カラ改行が挿入されているかいないかをチェックするためにはスクロール型ビューアもしくはスクロールモードを持つビューアが良いです。
という感じで条件を考えてみますと、現状ではどうもiOS版のiBooksがこれに近いかなと思っています。タブレットで動くビューアでサイドロード(外部EPUB読み込み)ができて、スクロールモードを持つのはiBooksくらいですので、現状これがよいかなと。
ただ、iBooksは文字のサイズをそう細かく制御できないので、その意味ではKinoppyも悪くないです。こちらは細かく文字のサイズ調整が効きますので、底本の版面に1行文字数を合わせるのがかなりラクです。現状EPUBビューアではこのあたりを使い分ける感じかなと思います。
iPadの画面上でEPUBの文字列にハイライトを入れるのは指では結構ツラいものがありますが、質のよいタッチペンを使ってちょっとコツを摑めばそうストレスはない感じです。結局この場合必要なのは修正が必要な箇所にちょっとハイライトチェックを入れる程度の話で、細かい指示が必要ならメモも記入できますので、社内での校正ならこれでなんとか行けそう。Apple Pencilなど質の良いタッチペンの新製品も出てきていますし、いろいろと試したいところです。
iBooksにはハイライトを付けた部分を一覧表示して、タップすれば該当箇所に飛べる機能もありますので、このあたりは紙での校正より確実に便利でもあります。
外部で校正してもらうにはPDF化が必要
さて、社内の内部校正目的なら上記の方法でiPadでハイライトをつけて、iPadごと作業者に渡せばどうにかなりますが、出版社など社外に出したデータを校正してもらう時に同じ手は残念ながら使えません(iPad本体はいくらなんでも送れません)。
このため、私が勤めている会社では現状Mac版iBooksをスクリプト処理で全ページめくってスクリーンショットを取ってPDF化し、これをEPUBと一緒に送って見てもらうようにしています。
現状プリントができるEPUBビューアは少ないため、致し方ないところですが、全ページ画像化してPDFにする話になりますので、PDFのファイルサイズが巨大になってしまうのと、作成に結構時間がかかるのが悩みどころです。
Vivliostyle Formatterを試してみた
このため、何かないかなと探していたところ、Vivliostyleさんが現在ベータ版公開中のVivliostyle FormatterでEPUBからPDFへの変換をサポートしたということのようなので、ちょっと試してみました。
説明にあるように、ターミナルで
1 |
vivliostyle-formatter(パス通してなければ絶対パス入れる) [epubファイルのパス] --output-dir=[PDFファイル出力先フォルダ] --width=[幅] --height=[高さ] |
と入力するとPDFを出力してくれます。
現状ページの境にルビがかかった際にレンダリングが乱れること、ページ数が多い際に版面が段々下がってしまい、やがて次ページにはみ出してしまうなどの不具合があるようですが(縦組みのみか?)、出力時間が短く、ファイルサイズが小さくて済むのはなかなかの利点です。まあベータ版ですし多少は致し方ないところ。製品版での修正に期待します。
今すぐ全てを代替というわけにはいきそうにありませんが、ルビのないものなど、コンテンツによっては現状でも結構便利に使えるのではないでしょうか。外部スタイルシートが読み込めるのもマルです。一時的に特定のプロパティの色を変えて確認などというマネができます。
あとは1行文字数をできるだけ底本のそれに合わせるために画面で確認してからPDF出力したいところですが、まあこれは今後いろいろ試してみたいと思います。外部読み込みスタイルシートにいろいろ仕込んだり、Vivliostyle.jsと連携すればできるかも。
あらかじめVivliostyle FormatterをApplicationフォルダなど任意のフォルダにコピーしてインストールし、.bash_profileにVivliostyle Formatterのフォルダへのパスを設定しておく必要がありますが、なかなか便利に使えます。
なお、最近使いはじめているXojoの練習を兼ねてMac用のVivliostyle Formatterフロントエンドを作ってみました。Vivliostyleの村上真雄さんのご許可をいただきましたので公開しておきます。
ダウンロードはこちら↓
vivliostyleFormatter_EPUB2PDFOutput.zip
1 file(s) 9.62 MB
.bash_profileの追記はこちらなどを参考に。難しければこちらのアプリなどを使って不可視ファイルを一時的に見えるようにし、ユーザーのホームフォルダにある.bash_profileをテキストエディタで開いて
「export PATH=/Applications/vivliostyle-formatter-0.1.4-mac/vivliostyle:$PATH」
などと追記すれば大丈夫です(.bash_profileが見当たらなければ作りましょう)。
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なお、ここで目的としているのはあくまで「テキストがブロックごと飛んでいないか、画像が抜け落ちていないか、ルビが落ちていないか」といった点をチェックする目的の「校正」で、各ビューアの挙動に起因するような細かな表示の乱れの修正はまた話が別です。そちらは目視校正で追うのはだいぶ無理がありますので可能ならシステムで吸収したいところですが、ビューアのアップデートも早いためなかなか追いつけていないのが現状です。特に縦組みコンテンツでの挙動にトラブルが多いため、どうにかしたいところです。
また、従来紙の底本の中で注意が必要な箇所に付箋を立て、それをもとに電子化作業を進めるフローもありますが、新刊の電子化などでは底本がないまま電子化作業を行わざるを得ないケースも増えています。プリント代もバカになりませんので、少なくとも比較的単純な読み物的なコンテンツについてはいずれタブレット等での代替を模索したいところです。こちらはPDFアノテーションでの対応ということになりそうかなと思っています。
(2015.12.15)
「Vivliostyle Formatter 2015.12 Beta」のバージョンで、PDF出力時にエラーが出て正常に出力ができない現象が確認されました。中の人には報告済みです。オプションの記法が変わった模様。合わせてツールを改訂しました。
(2016.1.8追記)