「Kindle パブリッシングガイドライン 2018.2」更新内容チェック

Amazon Kindle向けコンテンツ作成の仕様書、「Amazon Kindle パブリッシングガイドライン」が更新されていたようですので、更新部分をざっくりとチェックしました。英語版はこちら。以下、見出しは元文書の見出し項目そのまま、赤字は特に重要と思われる箇所です。ご一読ください。

“2.1.1 Kindle Create”

 Kindle Createについての表記追加。.doc/.docx形式のファイルからKindleドキュメントを生成できるもの。ただし現状まだ日本語には未対応のよう。

“3 フォーマットの比較”

 「タイプセッティングの改善のコラムを追加」とある。ここでのコラムは表組みの「列」の意味と思われる。

“6.7 サポートされる文字とスペースの使用”

 「問題を起こす可能性があるため、Unicode 形式の文字は使用しないでください」とあるが、「Unicode 形式の文字」は英語版ドキュメントでは「Unicode format characters」とあり、「Unicodeの制御文字」と訳すべき箇所。
 おそらくU+0000 – U+001F(C0制御コード)、U+007F(削除文字)、U+0080-U+009F(C1制御コード)などを指していると思われるが(参考)、U+2028(LINE SEPARATOR)、U+2029(PARAGRAPH SEPARATOR)なども制御文字であるため注意が必要。また、U+0000〜U+001Fの制御文字のエリア内でもU+000A(LF)やU+000D(CR)などは改行コードであり、これを使うなというのは現実味がない。具体的に使うべきでないコードポイントを明示して欲しい。

“7.1 内部リンクに関するガイダンス”

 「意図しない脚注のポップアップが表示されないようにするには、脚注ではない内部リンクに双方向ハイパーリンク (A から B へのリンクと B から A へのリンク) を設定しないでください。」とある。作り方としては一般的だが、制作指針に縛りをかける要望ではある。
 また「現在、電子書籍端末の固定レイアウトの本では、内部ハイパーリンクはサポートされていません。」とあり、ここはずっと変わっていない。

“7.2 外部リンクのガイドライン”

 「本から外部Webサイトへのリンクは、読者体験とAmazonによって定められた本のコンテンツをより一層意義あるものにし、それらに直接関係のある場合に限ります。」とある。外部へのリンクは技術的に可能でも規約上の制約がかかるため注意が必要。
 「Amazonはリンクを独自の判断で削除する権利を有します。」ともある。

“9.1 メタデータのガイドライン”

 「<dc:language>」および「<dc:title>」が必須、ページめくりの方向が左から右ではない場合、メタデータまたは背表紙に「<meta name="primary-writing-mode" content="horizontal-rl"/>」のような形でページめくり方向を明示する必要がある、との記述。これはAmazon独自のメタデータなので注意が必要。従来これはフィックス型のEPUBでのみ必要な措置だったように記憶しているのだが、リフロー型でも必要になったようにも読める。だとすればメタデータの追記が必要になるだろう(ちなみにこの「horizontal-rl」という記述も以前からある罠で、「horizontal-lr」もしくは「vertical-rl」になると思われる。一度引っかかった)。なお、 「背表紙」は「Spine」をそのまま訳してしまったミス。OPFのSpine項目への記述のことと思われる。「<spine page-progression-direction="rtl">」の記述で代替できるということか?

“9.3.11 Real Page Number の有効化”

 実ページ番号のサポート。教科書など教育関係の本で要望がずっとあったもので、iBooksなどではかなり前からサポートされていた(参考)。
 「出版者は、電子書籍のReal Page Numberをその電子書籍と最も一致度の高い印刷版(ハードカバー、ペーパーバックなど)にマッピングし、ISBNをhttp://kb.daisy.org/publishing/docs/navigation/pagelist.html#descに従いメタデータに指定する必要があります。」とあり、紙版の書籍と電子版の双方を刊行する前提の本で使うことを想定したものであることがわかる。米国などでのKindleの教育市場へのニーズを伺わせる機能追加。おそらくは電子教科書用だろう。
 なお、「サイドロードでプレビューできませんが、電子書籍が出版されると表示され、詳細ページにも記載されます。」とあり、残念ながら実際の挙動を確認することはできなかった。

“9.3.12 脚注のガイドライン”

 「脚注のマーキングには HTML5 の aside 要素を epub:type 属性と組み合わせて使用することを強くお勧めします。その場合、アクセス可能な端末では指示が追加されていない限り脚注を無視することができます。」とある。脚注を通常の画面内では非表示にし、リンクを叩いた際にだけ表示させるという意味かと思う。
 脚注のポップアップ表示にも対応したとのこと。なお脚注のポップアップ自体はiBooksや楽天KoboのiOS版、Microsoft Edge(同一xhtmlファイル内に脚注のジャンプ先がある場合のみ)では既に対応済み(参考)。Kindleでは専用端末のKindle PaperWhiteなどで脚注表示の挙動は見られたが、これはepub:type 属性を無視して相互リンクを脚注と見なす極めて不完全な対応だった(参考)。
 KindleがEPUBの脚注の正式な規格であるaside要素およびepub:type属性への対応を謳ったのは今回が初である。どう変わったのか挙動を見てみたのだが、現状Kindle FireおよびKindle PaperWhiteでポップアップの挙動は見られなかった。また、Kindle PaperWhiteではリンク自体が動作しないという挙動があり、これは早急に修正して欲しいところ。

“9.4.11 サポートされている SVG タグと要素を使用する”

 SVGの項目自体は以前からあったが、「タイプセッティングの改善」に関係する記述が追加されている。ここだけでなく影響はありそうなので注意が要りそうだ。

“9.5.2 シンプルな HTML の表を作る”

 ここにも「タイプセッティングの改善」に関する追加記述がある。

“9.6 MathML のサポート”

 数式のMathML表記をサポートしたとのこと。

“15.1 タイプセッティングの改善について”

 今回の更新内容の多くの項目が「タイプセッティングの改善」機能に絡むものだが、日本語はまだ対応言語に入っていないようなのでまだ考えなくてよい模様(15.5 
サポート対象の言語)。

“16 付録 B: タイプセッティングの改善でサポートされている属性とタグ”

 サポート対象のCSSプロパティ、HTMLタグが列挙されている。

今回、Real Page Number対応やepub:type 属性での脚注ポップアップ対応、MathML対応など大きな追加ポイントがありましたが、潜在的に最も大きな変化は「タイプセッティングの改善」(まだ日本語非対応ですが)に関するものでしょう。これは改訂履歴の項目の大部分がこれ絡みであることからわかります。
どうもずっとこの機能は謎のままだったのですが、今回の改訂から推測する限りでは、フォントサイズや端末の種類に伴う画面サイズなどの変化に応じてKindle側が随時CSSの値の調整を行う機能であるように思われます。つまりメディアクエリ的なことをKindleが自動でやるということです。これは日本語コンテンツでも使えるようになれば相当以上に大きな変化がもたらされるものと思います。ただし実機でのコンテンツ表示チェックは相当以上に大変になりそうです。Amazonがレンダリングエンジンの不具合を長期放置している理由もこれの対応が絡んでいるような気はします。

(2018.8.6)

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Jun Tajima

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