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電子書籍と「価格」について

2013/03/14

 早いもので、このブログも3月末で開始後一年を迎えます。面倒くさがり屋の私が、ひとつのテーマで一年もブログを続けられたのは、読者の方々および、多くの助言をいただいた電子書籍関係者の皆様のおかげと思っております。
 昨年の今頃には、緊デジ事業開始の説明会に参加する準備をしながら、それでもまだ電子書籍が本当に普及に向かうのか一抹の不安は隠せませんでした。そして当時はここまでどっぷりと緊デジ事業に関わることになろうとは思ってもおりませんでした(笑)。

 さて、今回は約一周年ということで、昨今何かと話題の「電子書籍の価格」について少し考えてみたいと思います。電子書籍の価格が「紙書籍に対して高いか安いか」というような論説はすでにすでにあちこちで語られています。ただ、これについては出版社の主張する「正当な価格」と、消費者の期待する「望まれる価格」の間に、依然としてかなりの落差がありそうに見受けられるのも事実です。この落差はいったいどこから来ているのでしょうか。今回はそのあたりについて、少し考えてみたいと思います。

書籍の流通サイクル

書籍の流通サイクル 電子書籍の価格について考えるに先だって、まずは紙の書籍の「流通サイクル」について考えてみましょう。
 典型的な例として、例えば人気作家の小説といったようなタイプの書籍を想定しますと、こういった書籍は通常、まずハードカバー(豪華装丁本)として販売されます。その後、一定期間を過ぎた後に、同一内容の書籍が文庫本といったような形に簡易リパッケージングされ、通常は半分以下の価格で再度販売されます。この後、再版などのタイミングで細部の修正がされることはあっても、価格が大きく変わることはそうありません。まずはここまでが、従来出版社が想定してきたと思われる「書籍の流通サイクル」であるように思います。つまり、出版社にとっては、「書籍を世に送り出した」その時点で流通サイクルは終わりだったのです。

 ただ、出版社にとっては市場に出したその時点で手が離れるとしても、一度世の中に出た書籍というマテリアルそれ自体はずっと残ります。そして、ここで書籍という文化そのものを大きく下支えしてきた「古書店」の存在を忘れてはならないでしょう。書店で購入され、一度読まれた後に古書店に売られた書籍は、その後も幾度となく市場を巡り、多くの人の目に触れ続けることになります。文庫版が発売された時点で、過去に発売されたハードカバー版の同一タイトルが古書店に並んでいるのをみなさんは日常的に目にしているものと思います。そして時としてその価格は、ハードカバー版の古書の方が安かったりもします。すなわちその時点で、消費者の前には「新しい文庫版」と「ハードカバーの古書」の双方の選択肢があり、消費者はそこでいずれかを選択して購入できるのです。

 それでは、日本における「古書」の市場が「新品書籍」の市場と最も大きく異なる点はいったい何でしょうか?

「非定価販売市場」としての「古書市場」

 古書の市場と新品書籍の市場が最も大きく異なる点、それはまず何をおいても、古書市場は「定価販売」の市場ではないということではないかと思います。この記事を読んでいただいている方の多くがご存知のように、日本における新品書籍は、再版価格維持制度の対象商品です。われわれはこの制度のもとに、「本は全国どこへ行っても同じ価格」ということをこれまで常識として受け入れてきました。ただし、これが古書になると少々話は変わってきます。

 試みに、Amazonで適当な書籍の詳細画面を表示させてみます。すると、新品書籍を購入するためのバナーの下に、Amazon MarketPlaceの出品物へのアクセスリンクが表示され、ここから同じタイトルの古書を購入することができます。このMarketPlaceへの出品の仕組みは、出品者が自由に価格を設定し、それが表示されるだけという単純なものですので、出品者の思惑次第でさまざまな価格が設定され、購入者は一覧表示された出品物の中からそれを選んで古書を購入することになるわけです。通常は価格の安さ、商品の状態が評価軸になるのでしょうが、出品者の評価(信頼できるかどうか)や、送料込みの価格かどうかといった点も考慮する必要がありますので、単純に古書を買うだけとは言ってもなかなか深いものがあります。
 しかし、こうした購入の選択肢は、新品書籍を購入する際には当然存在しません。どこで購入しても同じ価格であれば、通常は最寄りの書店で買うでしょう。もしくはもっと安直に、Amazonなどの通販を利用するという選択肢を選ぶかも知れません。

 考えてみれば、これはかなり特別なことです。私たちは例えば電化製品を買う時、あるいは服を買う時、さらには日々の食料品を買う時にも、まず「どこの店で買うのが安いか」を考えます。それぞれの店の経営者は、それぞれの商品をいくらで売るかということに最大の注意を払い、客を店に引き寄せようとします。しかし、定価販売が原則となっている紙の書籍の市場では、この「価格」という最大の評価軸が存在しないのです。

 ここに、現在の日本の書籍の市場の特殊性があります。そして、新たに登場してきた電子書籍の市場が、紙書籍の市場と最も大きく異なる点もまた、「電子書籍は再販制度の指定商品ではない」という点にあると言えそうです。既に日本でも多くの例が出てきていますが、現在電子書籍の販売価格はストアごとに異なり、また時期限定の廉価販売なども当たり前のように行われるようになってきています。電子書籍でコミックスの1巻目は販促目的で100円で販売されるというのは、すでにもう当たり前の光景です。そしてこれは、これまで紙の本では決して起こり得なかった光景でしょう。

 電子書籍を買う時に、「各販売ストアを巡って価格を比較する」この考えてみれば当たり前のアクションは、電子書籍が再販価格維持制度の指定商品ではなく、電化製品や食料品と同じ通常の商品(法制上は「ソフトウェア」)であることから生まれている現象なのです。この意味で、電子書籍の市場は、新品書籍の市場よりも古書の市場に近いものがあるとも言えます。

並立する2つの市場の価格差

 出版社の主張する「正当な価格」と、消費者の期待する「望まれる価格」の落差は一体どこから来ているのでしょうか? ここまで読んでもう何を言いたいかおわかりになった方が多いかと思いますが、私は結局「古書市場の価格が考慮されていない」ことに主要な原因があるように思っています。

 上述したように、書籍の市場は新品の市場だけではなく、古書の市場があり、この二つの市場は実際にはほとんど背中合わせに並立しています。そして再版価格維持制度によって新品書籍の価格はずっと変わりませんが、古書の価格は市場の法則に従って段階的に低下していきます。発売直後の本には、いち早く話題の本を読むことや、それを話題にすることで購入者が注目を浴びることが出来るといった付加価値がありますが、時間を経るごとにこうした付加価値は発揮しにくくなるのですから、潜在的な価値の低下はむしろ当然のことです。古書の価格はこれを如実に反映していると言えるでしょう。しかし、新品書籍の価格はずっと変わらず、結果として価格の落差がどんどん大きくなるのです。

 もちろん、新品書籍には古書にはない魅力があることは決して否定しません。「新しい紙の手触りやインキの匂い」は古書では味わえないことも確かです。また、再販制度によって新品書籍の価格が多少なりとも抑えられてきたことも考慮する必要はあるでしょう。ただ、価格差が一定以上に開き、かつ入手性に差がない場合、多くの場合古書が選ばれる可能性が高いということを出版社は直視する必要があります。

「入手性」の価値

 この、「入手性」というものほど、ここ10年のネット環境の発展によって大きな影響を受けたファクターも少ないように思います。
 かつて、古書市場がそれぞれの古書店が物理的に存在している地域の住民だけが利用する「ローカルな」市場であった時代、新品書籍と古書との入手性には、大きな隔たりがありました。特定のタイトルの本を求めて古書店に行っても必ずしも目指すタイトルの本が入手できるわけではなく、結局は新刊で本を買うといったようなことは多くあり、この「不便さ」によって新品書籍の市場と古書の市場はある種のバランスを保っていたとも言えます。

 つまり、「欲しいタイトルが必ず入手できる」という新品書籍市場の利便性に対して、消費者はしかるべきコストを支払っていたわけです。
 ただ、このバランスはネット上のバーチャル古書店である(実際は数多くの古書店がAmazonの軒の下に出店しているわけですが)Amazon MarketPlaceの出現によって完全に崩れ去ってしまいました。

 実際にAmazon MarketPlaceを利用してみればすぐに実感できますが、一昔前にある程度話題になった本であれば、ほとんど全ての古書を入手することができてしまいます。もしAmazon MarketPlaceに本が出品されていなければ、そのとき「だけ」新品書籍を購入すれば良いのです。もはやこうなってくると、新品書籍と古書の入手性にほとんど差はないと見なさざるを得ません。ネットのアーキテクチャの急激な発展が、古書の入手性を新品書籍の入手性と並ぶところまで押し上げたのです。

電子書籍の価格付けの問題点

 つまり、紙の本の代替物として電子書籍を考える場合、もはやいわゆる紙の「新品書籍」の代替を考えるだけでは十分ではないのです。価格面についても、これはむろん同様です。

 あくまで私見ですが、紙の本が新刊で発売されるのと同時、あるいは直後に電子書籍が発売された時点の価格は、紙より多少安い程度であれば問題はないと思います。もちろん再三指摘されているように、電子書籍は人に貸せませんし、古書店に売れませんが、その代わりに物理的なスペースを占有せず、FaceBookやTwitterといったSNSとの親和性を高めやすく、ソーシャルリーディングといったように独自の価値もありますから、紙書籍を選ぶか電子書籍を選ぶかはこの時点では単純にどちらの側のメリットに魅力を感じるかの問題だけでしょう。

 ただし、発売からある程度時間が経ち、話題性といったような潜在的価値が落ちてきた電子書籍が、ずっと高い値付けのまま販売され続けることには問題があると考えます。なぜならば、紙の新刊本は確かに同じ値段のまま書店に並び続けているものの、読み終わった本はその多くが古書市場に流れ、現実には市場経済の原則に従ってずっと安い価格で流通しているからです。500円で売られ続けている電子書籍の紙版がその時点で(古書とはいえ)例えばAmazon MarketPlaceで200円で入手出来るなら、多くの消費者は古書の紙版を選ぶであろうことに疑いはありません。すなわち、ある程度時間が経った時点での電子書籍の価格付けは、新品書籍の価格ではなく、送料を含んだ古書の実勢流通価格を参照して決定すべきなのです。

 さらに考慮するべき点としては、古書の販売がいかに活発に行われても、もともとその本を出版した出版社や、ひいては著作者には1銭も入っていないということがあります。これは著者にとっての長期的な創作活動のインセンティブという面から考えても、やはり健全な状態とは言えないように思います。これについては、あるいは権利者への補償金という形でバランスを取ることも考えるべきかも知れませんが、結局は出版社自らの判断で、電子書籍を古書市場の相場も考慮しながら段階的に柔軟に値下げしていくことが、生き残る上でも最善の道なのではないかと思っています。
 安価に設定された電子書籍は、やはり安価で出回っている古書の対抗商品に十分になり得るでしょう。そしてそれは、これまで古書の市場に流れていたお金の流れを出版社の側に引き戻すことに他ならないものと思います。

 もちろん私は古書の市場を否定するつもりもさらさらありません。大きな意味での書籍市場の価格バランスを維持し、出版社で品切れになってしまった入手困難な本の流通を最後の段階で担保してきたのは、これまで古書市場の担ってきた大きな役割であったように思っています。ただ、電子書籍という新たな形態の書籍の出現によって出版が大きく変わろうとしている今、こうした役割も必然的に変化せざるを得ないこともまた確かでしょう。新品書籍市場、古書市場の境界にこだわらず、消費者にとって本当の意味での価格と価値のバランスをもう一度見直す必要があるのではないでしょうか。

「定額読み放題サービス」の内包している可能性

 ただし、出版社が電子書籍「のみ」の価格を改定することに大きな抵抗を覚えるのもまた理解できるところです。現在出回っている電子書籍は、紙の書籍をそのまま電子化したものがまだまだ主流です。その状態で電子書籍版の価格のみを大きく下げれば、やがて紙書籍にも値下げ圧力が波及してくるのは時間の問題でしょう。そして紙書籍は電子書籍と異なり印刷や流通のコストがかかりますので、値下げには結局限界があります。そういったリスクをどう避ければ良いのでしょうか。

 これは、以前のエントリでも少し触れましたが、結局何らかの方法で「紙書籍と電子書籍の形を変える」ことが答えになるのではないかと思っています。例えば紙書籍では一冊だったものを分割して配信する「マイクロコンテンツ化」などはその典型的な一例で、特にスマートフォンなどで読まれるような軽い読み物には有効な手法と思います。ただこれが全てのコンテンツに適用できる手法ではないこともまた確実でしょう。短篇集は分割できても長編小説は分割できません。

 それでは他にどういった「形の変え方」があり得るでしょう。こちらももちろん全ての書籍に適用できるものとは思いませんが、「定額読み放題サービス」が、ひとつの答えになり得るのではないかと思います。
 つまり、ある時点までは通常のストアでのみ販売し、損益分岐点が一定のラインを超えた段階で、「定額読み放題サービス」内で閲覧できるコンテンツとして提供するということです。これはあくまで「販売」ではなく、「サービス内での自由な閲覧の許可」という形でコンテンツを提供するという点が通常の販売とは違う「形」になります。消費者は定額の利用料を払っている期間のみコンテンツを自由に閲覧できますが、購入したわけではないので、ユーザーの利用期限が切れれば閲覧はできなくなります。

 各コンテンツの最終ページに同じ著者の新刊書籍販売ページへのリンクを貼るなどすれば、新刊書籍への格好の導線にもなり得るでしょう。中には定額読み放題で読んだタイトルそれ自体を購入して手元に置きたいという消費者もいるでしょうから、そういったニーズにも可能な限り簡便な操作で応えられるようにすることも望まれるところです。また、もし新装版発売などの理由で読み放題サービスから特定のコンテンツを引き上げても、そもそも「販売」を謳っていなければクレームにはなりにくいものと思われますので、出版社側の判断で比較的自由に読み放題コンテンツを出し入れすることもできそうです。

 現状、すでに開始されているこのタイプのサービスとしては、KDDIが展開中の同社スマホ内での定額読み放題サービス「ブックパス」や、有斐閣の展開する法律書の閲覧サービス「YDC1000」、NTTソルマーレの展開するハーレクインコミックの読み放題サービス「定額ハーレクインカフェ」などがあります。

 かたや法律系専門書、かたやライトコンテンツという2極に位置する出版社が、結果として同一系統のサービスを指向したことはとても興味深く、今後のデジタルコンテンツ提供のひとつの形を示唆しているとも言えそうです。ただ、これらのサービスはいずれもまだまだ端緒についたばかりですし、消費者としては1社のコンテンツだけではなく、複数の出版社のコンテンツを自由に横断して読みたいところでしょう。その意味では現時点で複数の出版社ののコンテンツをカバーしているKDDIのサービスは面白いですが、これはKDDIのスマートフォンを持っているユーザー限定のサービスであり、まだ広がり感には欠けます。また、提供価格を考慮すれば無理はないですが、正直まだコンテンツがかなり限定されている感は否めません。いずれにせよ各サービスとも今後の展開に期待といったところでしょうか。

 先日発売された、『マニフェスト 本の未来』でも指摘されていましたが、こうした定額でのコンテンツ利用サービスは、すでに海外の音楽産業の世界では定着してきつつあり、「Spotify」「music unkimited」といったサービスが各国で展開されています。動画の世界でも、「hulu」のようなサービスが日本でも定着しつつあることを考えると、次世代のコンテンツ消費の大きな流れのひとつとして、「定額利用サービス(サブスクリプションサービス)」はやはり外せないものになってきそうです。書籍もまた、少なくともライトコンテンツに関しては長期的には同じ流れに向かうものと見て良いように思っています。

読み放題サービスとしての「図書館」

 さて、こうした「電子コンテンツの読み放題サービス」に近い特性を持ったリアル世界のサービスとして、真っ先にいわゆる「ネットカフェ」を思い浮かべた方は多数おられたかと思うのですが、私は実はもう一つ、とても近い特性を持ったリアル世界のサービスが存在しているのではないかと考えています。それは何かと言いますと、ずばり「図書館」です。

 私たちは公共図書館は無料のサービスと考えがちですが、実はこれは完全に正確ではありません。公共図書館で定期的に購入される図書の代金は、私たちが月々税金として支払っているお金から出ています。すなわち、公共図書館は「税金を支払っているその地域の人間に対して提供される読み放題サービス」と解釈することも可能であるように思います。大学図書館などでは「税金」が「学費」に置き換わりますから、「お金を支払っている特定のグループに対して提供される読み放題サービス」としての側面がよりはっきりします。
 もちろん図書館には「貴重な文献の保存・管理」という重要な役割もありますから、公共読み放題サービスのとしての側面が全てではないことも間違いないのですが、このまま図書館の利便性が高まっていけば、いずれどこかで民間の有料読み放題サービスと競合する側面が出てくることもまた確かでしょう。

 日本において電子書籍時代の図書館と市場を積極的に融合させようとした試案としてまず思い浮かぶのは、長尾真前国立国会図書館館長の構想、いわゆる「長尾プラン」ですが(参照:「電子図書館」(岩波書店))、もしあのプランが実際に実行に移されていたとして、利用者からコンテンツの遠隔利用料金を徴収する方式はどうなっていたでしょうか。あくまで推測ですが、少なくともそれぞれの書籍ごとに利用料金を変えることは事務の煩雑さからもちょっとできそうにありません。そうなると、一冊を借りるごとに一律に同一の料金を徴収するか、あるいは月額の利用料金を決めて読み放題とするかといったところに落ち着いていたのではないかと思われます。もしも後者のプランに落ち着いていたとすれば、これは完全に「国が運営する定額読み放題サービス」です。つまり、図書館と市場の距離は以外にもかなり近いのです。
 いささか長くなりすぎましたので、このあたりについては、いずれまた機会を見て、稿をあらためて書いてみたいと思っています。

(2013.03.14)

電書協EPUB3用XHTMLファイルを自動分割する

2013/02/03

 先日1月18日に、JEPAセミナーEPUB 第18回 EPUB 3制作の現場から IIに登壇させていただきました。ご来場いただいたみなさまありがとうございます。私が最初でその後に話題のSF小説Gene Mapper作者の藤井太洋さん、最後に電子雑誌トルタルの古田靖さんと小嶋智さんのセッションという構成でした。
 200人の会場が満員に近い盛況ぶりで、とても有り難いことだと思っております。動画がこちらにアップされておりますので、ご興味をお持ちの方はご覧になってみてください。

 さて、今回は当日私のセッションの中のInDesignからXHTMLを書き出すパートの中で、XHTMLの途中で1ページ画像を挿入するために自動分割する部分のシステム開発がまだ間に合っていないために、手動で分割しているというお話をさせていただいたのですが、その後(必要に迫られて)ファイル分割スクリプトを制作いたしましたので、アフターフォロー的な意味合いを込めまして発表させていただきます。
 なお、これはあくまで「電書協EPUB3制作ガイド」仕様のEPUB用XHTMLファイル専用の分割スクリプトですので、全てのEPUB用XHTMLファイルに使えるわけではありません。
 また、このスクリプトを使用したことに伴う損害等に関しましては、私として一切の責任は負いかねますので、あくまで自己責任でご利用ください。

use utf8;

#Encode/File::Basenameモジュールをインポート

use Encode qw/encode decode/;

use File::Basename qw/basename dirname/;

#引数1で指定した分割するファイルをインポート

$splitFilePath = $ARGV[0];

$splitFilePath = decode(‘UTF-8’, $splitFilePath);

open(IN,”$splitFilePath”);

#改行コードの統一処理、行ごとに再分割してリストに格納

@mySPLITFILEtxts = <IN>;

$mySPLITFILEtxts = join(“”,@mySPLITFILEtxts);

$mySPLITFILEtxts =~ s@\x0D\x0A@\x0D@g;

$mySPLITFILEtxts =~ s@\x0A@\x0D@g;

$mySPLITFILEtxts = decode(‘UTF-8’, $mySPLITFILEtxts);

@eachLine = split(“\x0D”,$mySPLITFILEtxts);

close (IN);

#入力ファイルのフォルダパス、拡張子を取ったファイル名を取得

my $myDirName = dirname $splitFilePath;

my $myFileName = basename $splitFilePath;

$myFileName =~ s@\.xhtml@@;

#ヘッダ部分を抽出して変数リストに格納

my @headerBlockTxt;

foreach $line (@eachLine){

if ($line =~ /<div class=\”main\”>/){

last;

} else {

push(@headerBlockTxt,$line)

}

}

#——————-分割処理——————-

#出力用変数リスト定義、連番カウント用変数定義

my @outputTxt = ();

my $outputFileCount = 1;

#文書先頭〜<div class=”main”>までは捨てる

foreach $line (@eachLine){

if ($line =~ /<div class=\”main\”>/){

@outputTxt = ();

#分割マークで区切られたブロックの出力

} elsif ($line =~ /■+分割■+|〓+分割〓+|〓+1ページ図入る〓+/){

my $finalOutputPath = $myDirName . “/” . $myFileName . “_” . $outputFileCount . ‘.xhtml’;

open(OUT,”> $finalOutputPath”);

foreach (@headerBlockTxt){print OUT $_ . “\n”;}

print OUT ‘<div class=”main”>’ . “\n”;

foreach (@outputTxt){print OUT $_ . “\n”;}

print OUT ‘</div>’ . “\n” . ‘</body>’ . “\n” . ‘</html>’;

close (OUT);

@outputTxt = ();

$outputFileCount++;

$outputFileCount++;

#最後の分割マーク〜文書末ブロックの出力

} elsif ($line =~ /<\/html>/){

my $finalOutputPath = $myDirName . “/” . $myFileName . “_” . $outputFileCount . ‘.xhtml’;

open(OUT,”> $finalOutputPath”);

foreach (@headerBlockTxt){print OUT $_ . “\n”;}

print OUT ‘<div class=”main”>’ . “\n”;

foreach (@outputTxt){print OUT $_ . “\n”;}

print OUT ‘</html>’;

close (OUT);

@outputTxt = ();

$outputFileCount++;

$outputFileCount++;

} else {

push(@outputTxt,$line);

}

}

exit;

分割文字挿入例 以上のスクリプトを「splitfile.pl」等の名前で保存し、xhtmlファイルを分割したい行に

「■分割■」「〓分割〓」「〓1ページ図入る〓」

などと指定しておいてから(分割文字に関しては、必要でしたら適宜書き換えてご使用ください)、ターミナルで

perl パス名+splitfile.pl パス名+処理するxhtmlファイル名

 と入力して実行すれば、指定したxhtmlファイルと同じフォルダに分割後のファイルが連番出力されます。分割ファイルの間に1ページ画像を配置したxhtmlファイルを挿入していくことを想定していますので、連番ファイル名は「p-000_1.xhtml」、「p-000_3.xhtml」のような形で出力されますが、仕様です。

 一応ダウンロード版もご用意しました。以下からダウンロードしていただけます。


 分割したいソースファイルをアイコンにドラッグ&ドロップすれば分割されます。

 分割したいソースファイルをバッチファイルにドラッグ&ドロップすれば分割されます。
 なお、事前にActiveperl等のperl環境のインストールが必要です。

(2013.2.04)

緊デジ(電書協)仕様のリフロー型EPUB3を作ってみる

2012/12/03

 AmazonのKindleストアもついに日本展開を開始し、Google Play Booksもサービス開始するなど、いわゆる「黒船」陣営も軒並み出揃ったことで、ついに本当の意味での「電子書籍元年」が始まった感があります(Apple iBookStoreが未だにロールアウトしないのが気になるところではありますが)。こうした中でpubridgeと紀伊國屋書店、楽天koboとの電子書籍配信・販売合意が発表され、緊デジ事業で制作されたコンテンツの提供先も確定しました。これから先も次々に提供先が増えていくことになるのでしょうか。

 緊デジ仕様のEPUB3は、まだ校正用ビューア等の仕組みが発表されていないため正式には制作開始前の状態ですが、「電書協EPUB3制作ガイド」に準拠するという方針は発表されており、「緊デジ版EPUB3テンプレート」も発表されているため、既に制作自体は可能です。

 ということで、以下は緊デジ仕様のリフロー型EPUB3コンテンツ制作の具体的な流れです。あくまでまだテスト段階ではありますが、ご参照いただければ幸いです。

1 本文用のXHTML/CSSファイルを準備する

本文用のXHTML/CSSファイルを準備

本文用のXHTML/CSSファイルを準備

 本文用のXHTML/CSSファイルを準備します。私は今回、テキスト部分に関しては以前のエントリで発表させていただいたInDesignでXMLのタグ付けをしてXMLを書き出し、Perlで変換する方法でXHTMLファイルを制作しましたが、これは印刷用データからの変換を前提としたワークフローですので、もとがテキストデータであれば初めからDreamWeaverなどweb系のツールを利用したほうが効率は良いかと思います。XHTMLファイルのタグ付けルールは前述の「緊デジ版EPUB3テンプレート」及び準拠している「電書協EPUB3制作ガイド」に従います。

 画像のみで1ページのページに関しては、「kinidigi_reflow_template」内の「p-005.xhtml」(1ページ画像テンプレート)を元に、タイトル、ファイル名、alt(代替名称)を書き換えてファイルを準備します。

 「電書協EPUB3制作ガイド」は基本的に紙書籍の電子化を目的としたガイドラインで、印刷データや.book、XMDFといったレガシーフォーマットからの変換を念頭に置いているものと思われ、全体的に現在もしくは近い将来に各ビューアが実装可能なプロパティだけに絞り込んだ、かなり保守的な仕様です。そのため電子ならではのインタラクティブな表現などはほとんど期待できませんが、その分ビューアの側の表現の揺れなどはそこまで気にしなくても良さそうな印象があります。緊デジ用EPUBに用いるためのXHTMLファイルは、この「電書協EPUB3制作ガイド」に従い、基本的に支給されたCSSファイルの記述を利用する形で制作します。通常書籍で必要とされる表現はほぼ網羅されていますので、書籍(文章もの)のコンテンツであればほぼ事足りるものと思います。自分でclass名を定義する必要はほとんどありません。

見出しid番号を連番で振っておく

見出しid番号を連番で振っておく

 もし、各作品ごとにCSSの追記が必要な場合は、必ず「book-style.css」内の作品別カスタマイズ領域内に記述します。その場合でも電書協ガイド(17ページ)で規定されている「RSによる対応を想定するHTML 要素とCSSプロパティ」の範囲内での記述に留める必要があります。

 本文用のXHTMLファイルは最終的に「p-001.xhtml」「p-002.xhtml」といった形で連番のファイルにリネーム※1し、目次に表示させたい見出しには「id="toc-001"」といった形でユニークな見出し番号を振っておきます。なお、IDの属性番号は1文字目は必ず英文字である必要があります。これはXHTMLを含むXMLの属性名命名規則の縛りです。数字は2文字目以降にしか使用出来ませんので念のため(私は一度やらかしました)。

2 カバー/注意書き/奥付/本扉などのXHTMLファイルを準備する

テンプレートをコピーし、書き換える

テンプレートをコピーし、書き換える

 「緊デジ版EPUB3テンプレート」のファイルをコピーし、書き換える形で、カバー/注意書き/奥付/本扉などのファイルを整えます。

 カバー「p-cover.xhtml」は、タイトル名を書き換え、イメージファイルのalt領域にタイトル名を記述すればOKです。カバーに用いる画像ファイルは「cover.jpg」の名前で準備しておいてください。

 電子化にあたっての注意書き「p-caution.xhtml」は、タイトル名と縦/横の記述を書き換えればOKです。

 奥付は通常、電子化クレジット「p-credit.xhtml」と、底本奥付(テンプレートの「p-006.xhtml」を参照)の2種類が必要です。電子化クレジットは各出版社から支給されるデータをもとに入力することになります。底本奥付は画像を用意し、タイトル名とファイル名の連番(p-xxx.xhtml)、目次用のid番号を書き換えればOKです。底本奥付用の画像ファイルは「original_credit.jpg」の名前で準備しておいてください。

 本扉「p-titlepage.xhtml」も基本的には画像ページでOKですが、出版社からの指定があった場合はテキストで準備することになります。画像の場合はテンプレートの「p-005.xhtml」(1ページ画像テンプレート)を元にファイルを整えます(ファイル名は「p-titlepage.xhtml」にリネーム)。テキストの場合はテンプレートの「p-titlepage.xhtml」を書き換えてください。

 書き換えが必要な箇所は、「電書協EPUB3制作ガイド」(26ページ〜)に色文字で示されています。ご参照ください。

3 作成した各ファイルをEPUB圧縮用のフォルダにまとめる

 「kinidigi_reflow_template」のフォルダをまるごとコピーし、フォルダ名をリネームしてから、作成したXHTMLファイルを「xhtml」フォルダに収納します。元から入っているファイル類は捨てるか上書きしてしまってOKですが、次のステップで「OPFパッケージファイル生成アプリ(緊デジ用)」を使用する場合は、「p-toc.xhtml」はそのまま残しておいて下さい(名前の抽出用です)。画像ファイルは「image」フォルダに収納します。元から入っているファイル類は捨てるか上書きしてしまってOKです。

4 OPFパッケージドキュメントを準備する

ファイルごとの見開き表現の有無を記述

ファイルごとの見開き表現の有無を記述

 OPFパッケージドキュメントを準備します。OPFパッケージドキュメントは、書誌情報やユニークIDの記述、EPUBパッケージ内に収納する全ファイルの登録、コンテンツの並び順や右綴じ/左綴じの規定、見開き表現の有無などを規定するもので、電書協ガイド/緊デジのテンプレートでは「standard.opf」の名称で規定されています。基本的にこのファイルを書き換えることになります。なお、このファイル名は「META-INF」フォルダ内の「container.xml」に登録されていますので、変更するとEPUBファイルとしてパッケージングができなくなります。

 今回私は、以前のエントリで発表済の「OPFパッケージファイル生成アプリ(緊デジ用)」を使用してOPFパッケージドキュメントを準備しました。image/xhtmlの登録作業や書誌情報やユニークID入力補助を目的としたアプリです。なお、このアプリを利用した場合でも、ファイルごとの見開き表現の有無(spine項目内「properties="page-spread-left"」記述部分)は手動で書き換える必要があります。
 ちなみに緊デジ仕様のEPUBでは、ユニークIDにJP-eコードを用いる部分が電書協ガイドのそれとは異なります。もし上記アプリを用いて緊デジ仕様以外のEPUBを制作する場合は、JP-eコードはuuid等に置き換える必要があります。

5 目次(p-toc.xhtml)ファイルを準備する

目次ファイルを準備する

目次ファイルを準備する

 目次ファイル「p-toc.xhtml」を準備します。なお、ここで言う目次ファイルは本文内にページとして表示される目次ファイルです。リーディングシステム内メニュー表示用の目次ファイルは「navigation-documents.xhtml」ですが、こちらには「表紙」「目次」「電子化クレジット」のみが登録され、緊デジでのEPUB3制作では通常書き換える必要はありません。この「p-toc.xhtml」も「OPFパッケージファイル生成アプリ(緊デジ用)」で自動抽出が可能です。ただし、目次は各書籍ごとに底本の体裁が異なるため、いずれにせよ後から細かな部分の編集は必要と思われます。

 目次のリンクの確認は、ファイルをSafari/Chrome等のブラウザで開くことで行うことができます。目次に限らず体裁の確認は、実際にEPUB圧縮するのと同じ構成のフォルダにXHTMLファイルを収納した上で、ブラウザで行うのが便利です。

6 EPUB圧縮を実行する

epub packagerを用いたepub圧縮

epub packagerを用いたepub圧縮

 OPFファイル、目次ファイルを上書きし、EPUB制作に必要な全てのファイルが整ったところで、EPUB圧縮を実行します。macで作業をしている場合は、フォルダ内の不可視ファイル「.DS Store」を除去する必要がありますので、まず「Ds Store Remover」にEPUB圧縮するフォルダをドラッグ&ドロップし、「.DS Store」を除去します(同種のアプリは複数あるようです)。

 その後、実際にEPUB圧縮を行います。ターミナルでコマンドを打ち込んで圧縮することも出来るのですが、私は普段「epub packager」を利用しています。ドラッグ&ドロップで圧縮できるので便利です。

7 エラーを修正する

epub Checkerでバリデートチェック

epub Checkerでバリデートチェック

 epub内のエラーを修正します。xhtml内idの二重登録、画像ファイル名の記述ミスなど、epub制作には間違いは付き物です。これをチェックし、全てのリーディングシステムできちんと表示されるepubを制作するために、バリデータでepubをチェックする必要があります。

 前出の「epub packager」では、epub作成時にバリデートもしてくれるのですが、実際にどういった部分に問題があったのかまでは表示してくれませんので、「Not Valid」と表示された場合は、バリデータでepubデータをチェックし、エラー部分を修正する必要があります。私は同じ会社から出ているアプリ「epub Checker」に、生成されたepubをドラッグ&ドロップし、バリデート作業を行っています。これはIDPFのepubcheckを内部的に利用したGUIアプリですが、epubcheckに関してはIDPFからCUI版のコマンドラインツールも配布されていますので、Windowsなどの環境でもそちらを利用してバリデート作業を行うことができます。epubcheckのエラーメッセージについては、前エントリ「IDPFのバリデータに叱られてみた」をご参照ください。

 全てのエラーを修正し、バリデータをノーエラーで通過できれば、epubファイルはひとまず完成です。

※1 電書協ガイドでは、ファイル名/id番号共に版元ごとに変更可能な項目として指定されていますが、本エントリではサンプルコンテンツの表記に従って「連番」としています。項目があまりに多数に及ぶ場合など、修正がしやすいような命名法を採用しても特に差し支えはありません

(2012.12.3)

 ファイル名/ID名の命名方式に関してご指摘をいただきましたので、追記いたしました。

(2012.12.10)

プロフィール
Jun Tajima

こちらにて、電子書籍&Web制作を担当しています。
このブログは、EPUB3をはじめとした電子書籍制作担当オペレータからの、「電子書籍の制作時にたとえばこんな問題が出てきていますよ」的な「現地レポート」です。少しでも早い段階で快適な電子書籍閲覧・制作環境が整うことを願って、現場からの声を発信していこうと目論んでおります。

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