電書関係おすすめ本
私が電子書籍について学ぶ際に役にたった本です。特に印刷サイドから電子書籍に行こうとしている人に参考にしていただければ幸いです。
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電子図書館 新装版(岩波書店)
著:長尾 真
元国立国会図書館長、元京都大学総長の長尾真さんの著書です。もともとは15年前に書かれた本なのですが、新装版にあたって序文が追加されており、この序文部分に現在国立国会図書館が目指そうとしている方向性がはっきりと示されています。
国立国会図書館が出版物のディジタルアーカイブを無料で作成し、これを「電子出版物流通センター(仮称)」を通じて利用者に有料配布してその売り上げを権利者に還元するというなかなか野心的な方向性のモデルで、この序文を読むためだけでも買っておく価値のある本です。このモデルの延長線上にあるのが、2012年4月に正式発足する「出版デジタル機構(仮称)」であると思われ、電子書籍版JASRACとも言われるこの団体が、今後日本の電子書籍普及にどのような役割を果たすのかなかなか興味深いところです。
本文はGoogle登場以前に書かれたものであり、今日では当たり前になっている部分もあるのですが、書籍の再構造化、新たな情報検索のありかた、知的所有権問題、ネットワーク時代における図書館と出版社の関係の変化など、15年前にこれだけ今日の状況をここまで的確に予想していた書物が存在していたことに素直に驚きを覚えました。
(2012.3.30)
2012年3月30日付け(驚きました、まさにこの文章を発表した当日です)で国立国会図書館館長を退任された、とのニュースが飛び込んできました。この方がトップにおられたことで日本の電子書籍関連のスキームは一気に前進したように思います。本当におつかれさまでした。
(2012.4.4追記)
ロングテール-「売れない商品」を宝の山に変える新戦略(早川書房)
著:クリス・アンダーソン 訳:篠森 ゆりこ
「ワイアード」編集長、クリス・アンダーソンのあまりにも有名な著書です。インターネットによる圧倒的な流通・在庫コストの低減効果が、これまで「死に筋」商品として切り捨てられていたニッチ商品に復活の道を与え新たなビジネスモデルを生み出していることを、AmazonやNetFlix、Googleといった成功企業の戦略分析を交えながらとても説得力のある言葉で語り起こしています。
ヒット商品とニッチ商品の割合を示した「ロングテール」のグラフは、過去10年で最も有名になった「グラフ」と言っても過言ではないでしょう。この本の内容は至るところで流用され、反論やら賛同やらの嵐を巻き起こしました。この本以降の議論の数々はまさに「ポスト・ロングテール」と言っても良いように思います。
今となっては6年前の本ではありますが、電子書籍に関連したあらゆる著書に影響が見られますので、未読の方には是非一読をおすすめします。
(2012.3.30)
「みんなの意見」は案外正しい(角川文庫)
著:J.スロウィッキー 訳:小高尚子
まるで自己啓発本のようなタイトルですが、原題は“THE WISDOM OF CLOUDS”ですので、直訳すれば「集団の知恵」もしくは「集合知」になります。かなり固い内容の本に少しでも取っ付きやすい印象を与えるために、あえて柔らかめの邦題を選んだといったところでしょうか。
内容的には「社会学」に属するのではないかと思います。「多様な人々の集団の判断は、常にその集団に含まれる最も賢明な個人の判断を正しさにおいて凌駕する」こと、ただし集団が常に正しい判断をするためには「多様性、独立性、分散性」が満たされる必要があること、これがこの本の骨子です。多様性に欠ける専門家のチームより多様な人々の集団のほうが正しい判断を下しやすいこと、ただし人々は常に互いの意見に惑わされない独立した状態におかれる必要があること、分散性に欠けるトップダウンの決定は集団を間違った方向に導く可能性が高いことなど、とても説得力があり、頷ける内容でした。
こういった「集合知」の壮大な実験場であり、成功例と言えるのがGoogleの検索アルゴリズムであり、Wikipediaであると言えるでしょう。Facebookに代表されるSNSもまた、独立性・分散性を保った状態で集団の知恵を汲み上げる新たな試みとして見ることができます。
ドワンゴがニコニコ静画で模索しているように、閉じたメディアである電子書籍も、どうソーシャルにアクセスしていくのかが今後の電子書籍普及のひとつの鍵を握るように思います。また、多様な電子書籍の海から読者が求める一冊を的確に素早く見つけ出せるようにするためには、Amazonのレコメンドに代表されるような集合知を応用した技術は大きな意味を持ってくるでしょう。是非、一読をおすすめします。
(2012.3.30)
著作権の世紀-変わる「情報の独占制度」(集英社新書)
著:福井健策
スキャン代行業者の訴訟がらみでもコメントを発しておられた弁護士の福井健策さんの著書。著作権とはそもそもどういったものかといった概論から、インターネットの普及によって著作権の成立した当時には考えられもしなかった個人が公衆送信を行うようになったことに伴う問題、時代に伴って著作権法も変化させなければならないことを多くの有識者が知りながら、さまざまな制約によりなかなか改定が進まない現状などをとてもわかりやすく解説しています。
こうした法律関係の問題などはなかなか実体験に基づいて知る機会は少ないだけに、このような本はとても助かります。既刊書籍の電子化で現状大きな壁になっているのが著作物二次使用の権利処理であることをはっきりと理解させてくれる一冊です。
(2012.3.30)
ケヴィン・ケリー著作選集1(達人出版会)
著:ケヴィン・ケリー 訳:堺屋七左衛門
達人出版会から「無料」の電子書籍として発行されたことで話題となった本です。また、単に無料というだけではなく、クリエイティブ・コモンズのライセンスに乗っ取り、非営利目的での再配布を明示的に許可した著作物でもあります。そのあたりの詳細に関してはこちらが詳しいです。
内容的には結構難しめの本なのですが、インターネットの普及によって生まれた新しい時代の枠組みにどう挑んでいくべきかという示唆に富んだ内容で、受け入れるにせよ、反発するにせよ、おおいに刺激を受けることでしょう。「千人の忠実なファン」などは特に面白く、マスメディアによるメジャー宣伝戦略が効果を発揮しにくくなってきている現在、アーティストが生き残っていくには何を目指すべきかについて語っています。ただ、この本は「ポスト・ロングテール」と言ってよい内容ですので、事前に「ロングテール」は読んでおいたほうが良いかとは思います。
(2012.3.30)
フリー-〈無料〉からお金を生みだす新戦略(NHK出版)
著:クリス・アンダーソン 監修:小林弘人 訳:高橋則明
クリス・アンダーソンが「ロングテール」に続いて発表した本です。Webサービスやソフトウェアではもはや当たり前になっている「無料経済」がなぜ成立するのかを、「直接的内部相互補助」(1本買えば1本無料etc)、「三者間市場」(いわゆる広告モデル)など過去のさまざまな「無料」ビジネスモデルとの比較をしながら解説しています。
「基本的に無料、高度な機能を利用する場合のみ有料」というビジネスモデル「フリーミアム」を広く知らしめたことで知られる本書ですが、かつては実体を持たなかった「注目経済」や「評判経済」といった非貨幣経済が、Googleのページランク技術のような新しい技術によって数量化できるようになったことで形を持つのものとなってきていることや、Webの成長が「贈与経済」の急速な伸長をうながし、有志による無料の解説サイトであらゆる情報が手に入るようになってきていることに言及していることも見逃せないポイントです。「ロングテール」とも共通する視点なのですが、クリス・アンダーソンは新しい価値観について説きながらも、それがある日唐突に生まれ落ちて来たものではなく、あくまで過去の価値観との連続性を持つものとして生まれた価値観であることを忘れず、繰り返し過去の事例との比較を試みています。
また、「ハッカーズ」発の「情報はフリーになりたがる」という言葉の紹介の中で、潤沢な情報はそれ自体が無料流通への指向性を持っている、という論を展開しており、それとも関連していわゆる「海賊版」(違法コピー)についても論じているのですが、クリス・アンダーソンは違法コピーを必ずしも絶対否定せず、中国やブラジルを例にとって違法コピーのもたらす宣伝・経済効果についても論考しています。海賊行為は「教育や法律によってなくせるたぐいの社会的行為ではなく、もっと自然の力のようなもの」だ、とも言っており、なかなか考えさせられます。
私も出版印刷業界の片隅にいる人間として、違法コピーを肯定する意志は毛頭ありませんが、アメリカでもトップクラスの編集者がこうした考えを持っていることは、著作権などの問題が頻繁に取り沙汰されるようになっている昨今、頭の片隅に置いておいた方が良いかと思います。法律による違法コピーの規制ももちろん必要とは思いますが、潤沢に適正な価格で提供される「正規コンテンツ」こそが違法コピー撲滅への何よりの対策であるように思っています。
なお、私はこの本を電子書籍で読んだのですが、こうしたビジネス書を読むにあたってはあまり電子書籍と紙書籍の価格差が気にならず、割にすんなりと受け入れられました。おそらく「情報を買っている」感覚が強かったからでしょう。一方で自分のなかでは「小説は紙で読みたい」という思いはいまだに根強くあります。一口に電子書籍と言ってもその内容によって早期に受け入れられるものと抵抗のあるものがあり、それは「紙の本を読む」というスタイルに対して払っている割合がどれだけなのかに関係しているようにも感じています。
(2012.4.4)
ルポ 電子書籍大国アメリカ(アスキー新書)
著:大原ケイ
ニューヨーク在住の出版エージェント、大原ケイさんの著書です。日本にいては見えにくいアメリカでの電子書籍事情について書かれた本であるのと同時に、アメリカから見て日本の出版事情がどう見えるのかについて率直な口調で語られており、なかなか参考になります。出版印刷業界の中にいる身としては時に耳が痛い部分もあるのですが、出版そのものについてきちんと知っていながら、日本の出版業界の力学に比較的影響を受けにくい立場の方の言葉はやはりきちんと耳を傾けておくべきと思います。
日本では携帯電話向け成人コンテンツが先行していた電子書籍市場ですが、アメリカでもやはりハーレクインなどの成人女性向けロマンス本が牽引役になっていること、もう一方の牽引役がコアなSFマニア層であること、日本には存在しないリテラリー・エージェントの役割、日米の性・暴力表現の線引きの違いなどを、「ルポ」のタイトル名通りに具体的なわかりやすい言葉で語られていて、比較的取っつきやすく、興味を持ってさらさらと読める本です。
大原ケイさんはツィッターやブログでも積極的に活動されていて、時々見逃せない書き込みがあります。Amazon、Google、Appleなど、毎週のようにアメリカの巨大企業の動向がニュースになる昨今、世界的な出版の流れを俯瞰する意味でもチェックしておくのが良いかも知れません。
(2012.4.18)
FREE CULTURE(翔泳社)
著:ローレンス・レッシグ 訳:山形浩生/守岡桜
ハーバード大学法学部教授、クリエイティブ・コモンズ運動創始者のローレンス・レッシグの著書です。クリエイティブ・コモンズ運動についてはこちらをどうぞ。
クリス・アンダーソンの「フリー」が「無料」の意味だったのに対して、この「FREE CULTURE」の「FREE」は「自由」を意味しています。自由な創造を許す文化と全てに許認可を求める文化を対置し、やみくもな知的財産権の保護強化とそのもたらす弊害について書かれた本です。
取られても減らない「知的財産」と取られれば減る通常の「財産」の性質の違い、著作権の保護期間の変遷、DMCA(デジタルミレニアム著作権法)がDRMの回避技術を違法としたことで、実質的に「フェアユース」領域が利用できなくなってきていることなど、著作権をめぐるさまざまな問題について述べている本ですが、電子書籍との関連では、P2Pファイル共有技術を通じた音楽の「海賊行為」についての考察がそのまま電子書籍に関してもあてはまるものとして興味深いです。
ローレンス・レッシグは中国などの違法コピー販売業者による営利的な「海賊行為」についてははっきりと否定した上で、P2Pファイル共有技術を利用したユーザー同士による非営利の「海賊行為」については、営利目的の海賊行為とは分けて考えるべき、との見解を示しています。具体的には、P2Pファイル共有技術で音楽コンテンツを入手する人を
A:音楽コンテンツをファイル共有を利用して無料ダウンロードで入手し、コンテンツを購入せずに済ませる人
B:音楽コンテンツを買う前に試聴する目的でファイル共有のコンテンツを利用する人
C:市場にもう出回っていない音楽コンテンツを入手するためにファイル共有を利用する人
D:著作権のない作品や、著作権所有者が無償配布しているコンテンツにファイル共有技術を介してアクセスする人
の4種に分け、はっきりと問題があるA分類のダウンロードを禁止するためだけに、全く問題のないD分類や、厳密には違法であっても実質的には著作者に損害を与えていないB分類やC分類の利用を禁止し、ファイル共有という新しい技術を抑制することを、過去のさまざまな「複製」技術・・・レコード、ケーブルテレビ、ビデオデッキ等の登場時の法の対応とも関連させて、「過剰な規制は創造性を損ない、イノベーションを潰す」と警告しています。
また、著作権が改定に継ぐ改定により、あまりにも長い期間、広い範囲に及ぶ権利になってしまっている現状を、著作権延長法の違憲裁判に関わった立場から書いており、現在日本で起きている「ダウンロード違法化」や、出版社への「著作隣接権」付与の問題を考えるとき、読んでおくべき本の一冊と思います。
(2012.5.9)
2015/01/20 00:23
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2016/04/30 14:27
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