メジャーアップデートされたKindleのWindows版アプリについて

2026/07/17

 KindleのWindows版アプリが2026年6月後半にメジャーアップデートされました。今回はMicrosoft Storeからの配布となっています。ようやくWindows版Kindleの日本語環境もAmazonが言うところの「タイプセッティングの改善」に対応したものと思われます。なお今回のメジャーアップデートはWindows11専用とのことで、Windows10など旧環境には適用されないようですが、Windows10は既に無料サポート期間が終わっていてMicrosoftもWindows11への早期アップデートを促している状況ですのでこれは仕方ないかと思います。

 さて、既にiOS版、Mac版、Android版、専用端末の「タイプセッティングの改善」対応メジャーアップデートは既に終わっており、今回Windows版がアップデートされたことでようやくボトルネックがなくなったことになるはずです。それを踏まえて、昨年の11月25日に私がJEPAセミナー(講演映像等はこちら)で発表した資料と比較しながら主要な改善点をチェックしてみたいと思います。半年以上前の調査資料ですが、他のデバイスのKindleアプリで大きな変更はないはずですので比較の意味はあるでしょう。現時点でのより正確な表示結果を確認したいという方は、Amazonで「EPUBリーダー表示テスト」および「EPUBリーダー表示テスト正解集」が販売されていますのでそちらをお買い求めいただき、検証してみてください。

Windows版Kindle(1.0.18632)テスト結果

文字の表示に関するテスト

埋め込みフォント関連

ハングルの表示結果

ハングルの表示結果

 長年の懸案だった埋め込みフォントの表示ですが、ハングルの表示テストについては画面のように表示できています。なお、この直前のテストは文字が化けてしまっているのですが、ハングルのテストではOpenType形式のフォント(SourceHanSerif-VF)を埋め込んでいるのに対して、直前のテストではTrueType形式のフォントを使用しているのでそこの違いかも知れません。フォントを埋め込んだ場合に読者側で特に指定しなくても埋め込んだフォントが強制優先表示される挙動は他のデバイスのKidleアプリと同様です。

日本語で使われる漢字の字形(異体字)バリエーションの表示

Unicode IVSでの異体字表示

Unicode IVSでの異体字表示

 CSSでのfont-variant-east-asian、同じくfont-feature-settingsでの異体字表示指定は効いていませんが、Unicode IVSでの表示はできています。他のデバイスのKidleアプリと同様の挙動です。以前のWindows版KindleではUnicode IVSの異体字表示文字が豆腐として表示されてしまう状態でしたので、ようやく使えるようになったというところでしょうか。

日本語EPUB 内での欧文イタリック字形の表示

イタリック字形の表示

イタリック字形の表示

 欧文イタリックを斜体ではなく本来のイタリック字形で表示させることも埋め込みフォントの使用を前提にすれば可能になっています。

サロゲートペア文字の表示

サロゲートペア文字の表示

サロゲートペア文字の表示

 こちらも問題なく表示できているようです。このあたりの文字(Unicodeの基本多言語面に入っていないが商用日本語フォントに字形情報はある文字)を外字画像化しなければならない状況はそろそろ終わって欲しいところですのでほっとしました。

結合文字列の表示

結合文字の表示

結合文字の表示

 これは文字によって結果が分かれる状況でした。問題になるのは合成済みのダイアクリティカルマークがUnicodeに含まれておらず、合成可能ダイアクリティカルマークを利用せざるを得ないキリル文字やギリシャ文字、アルファベットの「下」にダイアクリティカルマークが入るベトナムなどアジア圏の人名地名の欧文表記等ですが、これらの表示に瑕瑾があると専門性の高い本の参考文献ページなどが外字画像の山になって相当以上にツラいので早くどうにかして欲しいところです。

組版処理に関するテスト

画像のサイズ指定

画面に対する画像サイズの%指定

画面に対する画像サイズの%指定

 この項目は結構デバイスごとに対応している単位、していない単位があって複雑なのですが、Windows版Kindleも%での指定は効いていることが確認できました。これは他のデバイスも共通のため、画像サイズの画面に対しての%指定はできると考えて良さそうです。なお、Kindle以外のビューアの対応も考慮すると、「書字方向への%指定」が確実かと思われます。

実ページ番号表示テスト

 今回のテストではEPUB内に設定したページ番号(紙版と同じページ番号を電子版でも表示させる指定)の表示はできていませんでした。ただこれは元々紙版と電子版の双方が販売されているコンテンツで同じページを表示させるための機能で、Kindleパブリッシングガイドラインにもその記述があります。この本は同内容の紙版が存在しないため、効いていないのは当然と言えます。他の本では効いていた例があったという話を聞いたことがありますが、この条件に基づくものでしょう。制作側としてはできれば販売前に挙動を確認したいところですが、現状仕方がないところです。

カギ/句読点の前後のツメ・アケ制御/和欧間自動アキ指定

日本語約物の自動ツメ処理

日本語約物の自動ツメ処理

 約物類が連続する部分の詰まり方を見ると自動ツメ表示はできているようです。他のデバイスのKindleと同じ挙動に見えます。Kindleの文字ツメ、アケ処理はCSSによる指定が効いた結果ではなく独自処理の強制適用のようなので細かい評価はできませんが、日本語のテキストが読みやすくなっていることは確かなので喜ばしいところです。

ルビ関連表示テスト

ルビの肩付き指定

ルビの肩付き指定

 ルビの肩付き指定が効いています。これはKindle以外のビューアと比べてもかなり日本語対応できている部分です。一方で、通常と反対側のルビ(縦組みでの左側ルビ)の指定は効きません。他のビューアと同様ですが両側ルビの指定も効きません。

表テーブルセル幅/高さ指定テスト

表のセル幅の指定

表のセル幅の指定

 tableタグで表を作った場合に各セルの幅の指定は%、vw/vhの双方で効くようです。セルの幅が%とvw/vhで多少変わるのはビューア表示画面の周囲のマージンを含めて計算するかどうかで変わるということでしょうか。簡単な表組みであればtableタグで作っても問題ないと言えそうです。

MathML 数式表示テスト

MathMLによる数式表示

MathMLによる数式表示

 MathMLによる数式表示はできているようです。これは簡易的なテストに過ぎないため実際に数学方面の本の作成に使えるかどうかはより網羅的な調査が必要でしょうが、そちらは門外漢のため専門の方に任せたいと思います。

画像関連テスト

SVG 表示テスト

SVG画像の表示

SVG画像の表示

 SVG形式の画像の表示もできています。SVGはベクター画像のため画面を拡大した際にグラフ等がきれいに表示できることが期待できます。

クリッカブルマップ動作テスト

 クリッカブルマップの動作はできていません。これは他のデバイスのKindleも同様なため、Amazonの方針と見てよいのかもしれません。

気になった部分

囲み罫の角丸指定

角丸は表示できず

角丸は表示できず

 これは11/25の資料には入れていなかったのですが、Windows版Kindleで囲み罫の角丸指定(border-radius)が効いていなかったので指摘しておきます。他のデバイスでは問題なく表示できているので、いずれ修正されることを期待したいところです。
 追記:1.0.18632(最終更新日2026年7月6日)で表示が確認できたとの情報をいただきました。修正されたものと思われます。

今回できるようになったこと及び今後への期待

 今回のアップデートで、全てのデバイスのKindleアプリで埋め込みフォントが利用できることが確認できました。これは結構大きな話で、将来的には印刷物と同じように出版社側が任意のフォントを使えるようになるかもしれません。もっともそのためには各フォントメーカーがライセンスに同意してフォントの難読化やサブセット化を行えるツールが提供される必要はあるため、商用フォントの利用にはまだいくつもの壁はあるかと思います。
 ただ、SIL OPEN FONT LICENSE等のライセンスで公開されているオープンソースのフォント、具体的にはNoto SansやNoto Serif(源ノ角ゴシック/源ノ明朝)は現状でも問題なく利用できます。これによって、例えば現状EPUBでは実質利用できない極太ゴシックや極太明朝での見出しの表示や、(Noto Sans/Noto SerifはPAN-CJKフォントなので)参考文献等で大量に出てくることのあるハングルや中国語人名等の表示はできるようになるはずです。また、欧文等幅のNoto Sans Mono等を用いることでコンピュータ技術書などで求められるコードの等幅表示もできるでしょう。
 これまでEPUBでは日本語フォントが持っていない文字は外字画像にせざるを得ない状況でしたが、埋め込みフォントを利用してテキストの状態を保ったままデータ化できれば、アクセシビリティ対応という意味でも大きな進歩になります。
 また、Unicode IVSでの異体字表示に対応したことで(どこまで需要があるかはわかりませんが)人名等の細かな字形の差異にも対応できるようになりましたし、他のデバイスのKindleアプリと同様に約物のツメ処理が適用されるようになったことでようやくちゃんと日本語の本として違和感なく読めるようになったかなとも思います。実ページ番号表示も(おそらく)できています。
 今後はこれらを受けて制作者側が対応していくターンに入ります。いやーここまで本当に長かった。

(2026.7.17)



電書連(協)ガイドの更新について

2025/11/04

 日本の出版社のEPUB制作の指針として長く機能している「電書協 EPUB 3 制作ガイド」が先日更新されました。団体名が「デジタル出版社連盟」に変わりましたので、ガイド文書の名称も「電書連 EPUB 3 制作ガイド」(以下電書連ガイド)に変わっています。前回の1.1.3が2015年の発表だったので、今回の1.1.4は実に10年ぶりの更新ということになります。電書協ガイド1.1.3から電書連ガイド1.1.4への更新でどこがどう変わったのか、以下に簡単にポイントを挙げておきます。

制作者向けの更新点は少ない

 EPUB制作者向けの更新ポイントは少なめです。以下に列挙します。

・パッケージ文書(standard.opf)内の接頭辞の宣言に「dpfj: https://www.dpfj.or.jp/」が追加された。
・パッケージ文書(standard.opf)内、著作者名のカナ表記および整列順の指定を削除
・同じくパッケージ文書(standard.opf)内、出版社名のカナ表記の指定を削除
・画像形式にWebP形式が追加された(ビューアの対応は要確認)

 これぐらいかと思います。少ないですね。まあパッケージ文書等を見れば簡略化と言ってよいかと思います。とは言え、OPFの記述が変わりましたのでEPUB制作アプリの更新は必要で、どのタイミングで切り替えるかは各電子取次等の対応状況を見ながら判断していくことになるかとは思います。

EPUBビューア向けの要望は…

 一方で、各EPUBビューア向けの要望ですが、電書協ガイド1.1.3にあった「RSによる対応を想定しないHTML要素とCSSプロパティ」項目がまるごと削除されています。さらっと削除と書いてありますが、ここには1ページ半にわたって詳細な記述がありましたので、それが消えたことには相当以上のインパクトがあります。いくつか例を挙げると、HTMLでは「セクション」(section等)、「組込コンテンツ」(SVG形式の画像、MathMLによる数式等)、「テーブルデータ」(tableによる表組)、CSSでは「セレクタ」(::first-letterなど)、「リスト」、「回り込み」(float)など、Webではごく普通に使われる要素もここに相当入っていました。これを消したということは、「そろそろもうWeb基準で普通に使える要素は使えるようにして欲しい」という各EPUBビューア開発会社へのメッセージと見てよいのかなと思います。言うなれば「補助輪を外した」くらいの感じでしょうか。

 また、電書協ガイド1.1.3に引き続いて今回も「今後のRSに期待する項目」が別文書として付加されています。内容的には1.1.3のものとほとんど変わらないのですが、変わらないということはEPUBビューア側の対応状況がほぼ10年間変化がなかったということの反映かと思われます。各種の文字の表示対応やCSSの表示対応など、先にEPUBビューア側の対応が必要で、それが対応できていることを踏まえて初めて配信データ側が対応できる性質のものですので、各EPUBビューア開発会社の対応が望まれるところです。

今後に向けて

 以上が電書協ガイド1.1.3から電書連ガイド1.1.4への更新の概要になります。なおフィックスについては今回は更新なしということのようで、当面は現行のままになるようです。 
 今回の更新内容は従来の制作指針を大きくは変えない保守的な指針と言っていいかと思いますが、これは電書連(協)ガイドが各出版社、制作会社向けの実制作の基準として機能していることを考えれば無理からぬことと思います。また、電書連のサイトには「電書連への変更と EPUB 3.3 にて変更された内容に合わせて、本ガイドならびに別紙、サンプルファイルを修正しました。ただし、EPUB Accessibility 仕様への対応は含まれていません。」との記述があり、今回は読み上げ対応や実ページ数表示などアクセシビリティ関連の追加対応は見送られたようです。各EPUBビューアの現在の対応状況を踏まえての判断かと思います。とは言え、ほぼ10年間更新が途絶えていた電書連(協)ガイドが再び更新される状況になったことは朗報で、今後ビューア側の表示対応が一定のレベルに達すればそれに準じて電書連ガイドも更新されていくものと思います。

 最後に、若干これに関連しなくもない本の宣伝ですが、先日私が参加している「次世代パブリッシング研究会」(旧JAGAT XMLパブリッシング研究会)から、電子書籍「EPUBリーダー表示テスト」およびその正解表示を載せた「EPUBリーダー表示テスト正解集」が発売されました。これはEPUBの場合、実際に販売してみないとビューアの対応状況がわからないことから、ポット出版さまのご協力を得て「販売してみた」ものですが、これを通して各EPUBビューアがどこまでの表示に対応しているのかが観測できるはずです。
 また、これに関連したJEPAセミナーも11/25に開催予定ですので、ぜひご参加ご検討ください。

(2025.11.4)



リフロー型EPUB内での印刷版ページ番号表示について

2024/06/06

 鷹野凌さんのキーパーソンメッセージも出ていましたし、以前からこれが必要だと言ってきた経緯もあるのでちょっと補足説明などしておきます。

そもそもEPUB内の「ページ番号」とは

 まず、そもそも「リフロー型電子書籍」は本来、固定されたページ番号を持ちません。「ページ」は各デバイスでEPUBを表示した際にEPUB内のXHTMLファイルの内容が分割されて動的に生成されます。これは鷹野凌さんも説明されている通り。画面の小さなデバイスで表示すればページ数は増えますし、画面の大きなデバイスで表示すればページ数は減るでしょう。電子書籍アプリでリフロー型の電子書籍を読むときに画面下にページ番号(ノンブル)が表示されているかも知れませんが、これは通常「そのデバイスのサイズ、文字のサイズに対応して生成されたページ番号(ノンブル)」であって、それを根拠としてその本の特定の箇所を指し示すことはできません。ちょっと専門性の高い本を読めば、割と当たり前に既存の書籍の特定ページへの参照は出てきますが、「参照されている本を電子版で所有していた場合に、参照先が不明になってしまっている」のが現状なわけです。このため、「リフロー版EPUBにも電子化元の紙の本のページ番号を入れましょう」という話になっています。

「他のEPUB内の特定の場所を指し示す電子的な技術」はまだ発展途上

 EPUBは電子データなのだから既存の本のページ数にはこだわらず、EPUB内の特定位置を指し示す技術(epub-cfiなど)を使うべきだという意見もあるようですし、それはそれで意義があることも十分分かるのですが、そちらにも簡単には解決できない問題があります。
 現在商業流通しているEPUBが個々のファイルを指し示す個別のIDで一元管理されている状況ではないこと、がそれです。もちろん各ストアごとに商品のIDは振られているでしょうが、「ストアAの商品X」と「ストアBの商品X」が同じタイトルであることの紐付けはなされていません。紐付けるためには双方のストアのデータベースを突き合わせて紐付ける作業が必要になってしまっているわけです。
 つまり、「特定のEPUBの特定の箇所」を指し示したい場合に、「特定のEPUB」の方で参照先不明になります。これを解消するには、たとえば電話番号のように全世界的な番号管理の仕組みが必要になるはずですが、これがまだどこにもありません。これは国単位での調整も必要そうな大きな話なので、解決できるとしてもかなりの時間がかかるでしょう。
 また、これが解決できたとしても、紙の本から電子書籍の特定の箇所を指し示すことはできないため、紙の本と電子書籍との間で断絶が起きてしまいます。これはもちろん良くありません。「リンクを機能させたければ電子版をあらためて買いなさい」というような話になってしまいますし、それくらいなら読者が自分でページ数を見て該当ページを開く手間があるとはいえ、ページ数そのものを情報として入れた方が現実的と言えそうです。

全てのEPUBが対象というわけではない

 さて、では全てのリフロー版EPUBに紙の本のページ番号を入れる必要があるかというと、それも当然違うかと思います。小説のようなものには普通は必要ないでしょうし、紙の本から「電子化」されていない本にも元々ないものは入れようがありません。これは、「他の本の特定の箇所を参照したり、特定の箇所を参照されたりする可能性がある、紙の本から「電子化」された本」のためのものです。具体的には新書や、学術文庫などはこれに該当するでしょう(ハードな専門書は現在PDFベースで仕組みが作られているため事情が異なるかもしれません)。ストア側のアプリの対応も、そういった類の本の販売を重視しているストアは早く対応して欲しい、ということになるかと思います。

 そういった事情なので、これを要件として記述するのは「紙の本のデータからの電子化の仕様書」として作られた「電書協EPUB3制作ガイド」の改訂で、となるのは自然かなと思います。現在、電書協EPUB3制作ガイドを日本語EPUB表示の要件として各ストアがアプリを作っている状況なので、電書協EPUB3制作ガイドの改訂は紙の本のデータからの電子化に留まらない影響が出そうではあるのですが、それは本来何を求められているのかを考えた上で、個々の対応を柔軟に行っていくしかないかなと思います。

 なお、印刷版のページ番号をリフローのEPUB内に入れる技術的な方法はこちらを参照してください。8年前のエントリですが特に変わってはいないはずです。

(2024.6.10)



プロフィール
Jun Tajima

こちらにて、電子書籍&Web制作を担当しています。
このブログは、EPUB3をはじめとした電子書籍制作担当オペレータからの、「電子書籍の制作時にたとえばこんな問題が出てきていますよ」的な「現地レポート」です。少しでも早い段階で快適な電子書籍閲覧・制作環境が整うことを願って、現場からの声を発信していこうと目論んでおります。

当ブログ内の記事・資料は、私の所属しております組織の許諾を得て掲載していますが、内容は私個人の見解に基づくものであり、所属する組織の見解を代表するものではありません。また、本ブログの情報・ツールを利用したことにより、直接的あるいは間接的に損害や債務が発生した場合でも、私および私の所属する組織は一切の責任を負いかねます。