注、索引、この悩ましいものたち

悩ましいEPUBの「注」

 EPUBを作っていて結構手間がかかるのを覚悟しなければならないのが「注」です。注は紙の本では脚注、頭注、段間注、章末注、巻末注など配置位置によってさまざまに分類されていますが、(少なくとも現在の)リフローのEPUBでは同一画面内に注と本文を表示する脚注や頭注は再現が難しいので、注のテキストは章末や巻末に移動して本文内の合印との間に相互リンクを設定することになります。Amazonは現在制作仕様として注の相互リンクの設定を求めていますし、実際リンクの設定がないと電子本で注を参照しながら読むのはかなりストレスがたまるので相互リンク設定を指定することの意味はよくわかります。ただ、数百の注が存在するような類の本では相当な手間がかかるのも確かです。また、どう頑張ってもエンタメと同レベルの売り上げは期待できない難解な人文書などでは、コンテンツが複雑化・高度化すると制作費用の回収が困難になるという切実な悩みも当然あるかと思います。

悩ましいEPUBの「索引」

 同様に、言うなればリンクの塊である「索引」ページの電子化も当然大変です。難しめの本では巻末の索引を全てリンクにすると1000点を超えるようなケースは普通にありますので、膨大な手間(=コスト)がかかります。このため、現在DTPデータからのEPUB制作では索引はリンクとせず、用語だけ残す、あるいはページ自体を削除するという判断をするケースが多いようです。EPUBでは本文内を全文検索もできますので、そういう判断になるのは理解できるところです。

根本にある「2画面の相互参照」という要望

読者は同一ページ内の2つの「画面」を相互参照しながら読んでいる

読者は同一ページ内の2つの「画面」を相互参照しながら読んでいる


 ではなぜ注や索引の電子化に手間がかかるのかというところを考えてみると、「手作業で膨大な数のリンクの設定が必要になるから」というところに行き着きます。そしてなぜリンクしなければならないかと言えば、紙の本では許されていた脚注や頭注の配置のような「マルチカラム」レイアウトがEPUBでは現状許容されず、「シングルカラム」レイアウトに作り変える必要があるから、という点に集約されるのではないかと思います。紙の本では読者は同一ページ内の2つの「画面」を相互参照しながら読んでいるのです。
 索引も読者の行動としては索引ページを参照して本文ページをめくることになるので、2つの画面を見比べて読んでいるという行動自体は変わらないように思います。こちらも同じく実は「2画面の相互参照」なのです。
 見開きで片方のページに図を配置し、対向ページに解説を置くというスタイルにも共通の意味合いがありそうかなと思うのですが、そこにまで言及するとちょっと切りがなくなりそうなので今回はそこは触れないでおきます。

複数の本をまたいだ「注・索引」を実現するには?

 また、注を多数含むような本を電子化していれば嫌でも気づくことですが、現在EPUBでは「その本とは違う本の特定の箇所」にリンクを貼ることができません※1これは「特定のEPUBを指し示す世界共通の識別番号がまだない」という根本的な問題があるのでどうにもならないのですが※2、外部参考文献の参照に支障があるというのはやはり現状のリフローのEPUBが抱えている欠陥のひとつだと思います※3
 これの解決手段としては「共通の識別番号を設定してリンクを貼れるようにする」以外に、「紙の本のページ番号をタグとして埋め込んで呼び出せるようにする」「そもそもフィックス型で電子化する」などが考えられますが、さてどれが最適解なのかは今後市場が決めていくことになるのかなと思っています。当然どういった種類の本なのかによっても変わってくるでしょう。現在法律書などは固定レイアウトでの電子版提供が一般化している※4ようですが、そういう傾向がずっと続くのかはもちろんわかりません。

EPUBビューアに「タブブラウジング」機能が欲しい

Webブラウザでは一般化しているタブブラウジング

Webブラウザでは一般化しているタブブラウジング


 では電子版で2画面の相互参照を「リンク」を使用せずに行うにはどうすればよいのかと考えてみると、例えばごく単純に「2つのデバイスを用意する」ということを思いつきます。手元にタブレットを置いて注のページを参照しながらPCの画面でも同じ本の本文ページを開いて見比べながら読む、といったような行為です。これは既にやっている人はやっているかと思いますし、単純に画面が2つあるわけですから参照は容易でしょう。ただ、当然ながらデバイスを複数用意する追加コストは必要になりますし、電車の車内など手狭な場所で2つのデバイス画面を見比べながら読むのは厳しそうです。いずれVRデバイスがマルチ画面を実現してくれることを期待していますが、それはまだまだ先の話です。
 そこで思いつくのが、現在Webブラウザではごく一般的になっている「タブブラウジング」の機能です。タブレットで同じ本の複数のページを同時に開いて適宜タブをタップしながら画面を切り替えて読むことができれば、EPUBに相互リンクの設定が無くても気軽に注と本文を見比べられそうです。これならリンク設定ができないフィックス型のEPUBにも恩恵があるはずですし、既存のEPUBに手を加える必要もありません。当面タブレットやPCのようなマシンリソースに余裕のあるデバイス限定にはなるでしょうが、ビューアが採用してくれるとよいなあと思っています。タブはユーザー体験的に「枯れた」技術でもあるので、すんなり受け入れられるかなとも思います。

※1 このため外部の本への参照には通常元データにあるページ番号をそのまま残す。現状どうにもならないための措置だが、読者が参照されている書籍を電子版で所有していた場合には参照箇所を発見するのに相当な苦労を伴うことになる。
※2 EPUB内の特定の箇所を指し示すための規格としてはEPUB CFIが既にあるが、現在商用EPUBで気軽に使えるような状況ではない。
※3 とは言えEPUBから外部のWebページ等にダイレクトに飛ばすリンクを設定できることを考えると紙の本に対して一方的に劣っているわけでも当然無く、得手不得手があるということかと考える。
※4 Kindleのプリントレプリカを採用するケースが多いようだが、現状プリントレプリカは縦組みに非対応なのとAmazonのみにしか出せない問題が当然ある。

(2021.12.3)

コメント / トラックバック 3 件

  1. 沢辺 より:

    整理されててスッキリ、
    注項目記載段落直後の
    注はどう思う?

  2. Jun Tajima より:

    いわゆる段間注はそのままでいいのではないですかね。読者的に迷うこともないでしょうし。

  3. 石神 より:

    段間注に賛成です。

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プロフィール
Jun Tajima

こちらにて、電子書籍&Web制作を担当しています。
このブログは、EPUB3をはじめとした電子書籍制作担当オペレータからの、「電子書籍の制作時にたとえばこんな問題が出てきていますよ」的な「現地レポート」です。少しでも早い段階で快適な電子書籍閲覧・制作環境が整うことを願って、現場からの声を発信していこうと目論んでおります。

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