出版社公式ページのSNS対応状況を調べてみた

 最初に書いておきますが、今回は電子書籍の話というわけではなく紙本と電子本をひっくるめた「販売プロモーション」の話ですので悪しからず。
 今時のWeb対策としてSNSへの最適化が叫ばれて久しいですが、出版社の公式サイトはどうなっているのかなと思ってちょっと調べてみました。調査内容は

  • 各商品ごとに個別のページになっているか
  • ページ内に書影画像があるか
  • ソーシャルシェアのボタンがあるか
  • Facebookで書影が表示されるか
  • Twitterで書影が表示されるか
  • ネット書店へのリンクがあるか、対照ストア数はいくつか
  • 電子版の販売ページへのリンクがあるか、対照ストア数はいくつか
  • 試し読みができるか

 です。なお、書影画像の表示に関してソーシャルシェアのボタンがない場合はFacebookやTwitterの投稿にURLをコピーして貼り付ける形で調査しました。ある程度名の通った出版社のみが対象で、かつ商品1点のみで調べていますので、だいぶざっくりとした精度の粗い調査結果であることはあらかじめご承知おきください。

調査結果は以下の通りです。

https://docs.google.com/spreadsheets/d/e/2PACX-1vQ9tvIAd7Ejwy_7n_XtfclDBMY1vp8-007T-1FU6HoOEHiUNUlO8hYUl3zYdYCvIN6hNzoCxHZpWAE_/pubhtml?gid=0&single=true

書影の表示されない設定になっているサイトが多数

 まあ予想内だった部分と、案外ちゃんとしていた部分が入り交じっている感じでしょうか。

 まず、さすがにと言うべきか、商品ごとに独立したページになっており、かつ書影画像が貼られているところまではどこの公式サイトもできていました。これはまあある程度名の通った出版社のみを対象にした以上、わかる話です。ただ、ソーシャルシェアのボタンがないケースは何社かありましたし、Facebook、Twitterで書影が表示されない設定になっているケースはかなり多く見られました。書影は各ページ内のメタデータ(OGP)でパラメータを指定しておくことで表示させることができますが、その設定がされていないということです。

 いわゆる最大手の一角の公式サイトが全くそのあたりを考慮していない作りなのはちょっと驚きでした。おそらくSNS経由での情報拡散に重きを置いておらず、自社公式チャンネルからのマス的な拡散を考えているためでしょうが、ちょっともったいない話かなとは思います。例え大手出版社といえども、全ての作品を対象にマス的プロモーションはできないはずですので。
 総じて、まだまだ出版社公式サイト発のSNS情報拡散施策は不十分なところが多々見られるというところでしょうか。

誰もが情報を発信できる時代

 なぜSNS経由での情報拡散が重要なのか。これは「今はもう誰もが情報を発信できる時代」だということに尽きるでしょう。Webはメディアとして2004年から2005年ぐらいにかけて圧倒的な勢いで伸び始め、今や媒体別広告費で見て雑誌や新聞を遙かに追い抜いてテレビに迫ろうという勢いなわけですが参考、この勢いを生んだのがブログやSNSといった「技術を知らない個人でも気軽に情報拡散ができる仕組み」で、これがいわゆるWeb2.0と言われる動きでした。今やFacebookの月間アクティブユーザー数は全世界で20億人を突破しており、もはや完全にインフラとなって久しいと言えるでしょう。

 つまりすでに誰もが気軽に著作権法で言うところの「公衆送信」ができるわけで、ほんの20年前まで到底考えられなかった事態が起きているわけです。ある意味もう出版社や放送局などの既存メディアと個人との間に差はないとも言えます。もちろん組織として多人数で動かなければ作れないものは存在しますので、そこには既存メディアの優位性があるわけですが。
 出版や放送といった既存メディアがこの動きに警戒を示してきたのはまあ理解はできます。マーケットシェアを奪う動きに見えたでしょうから。ただ「もう意地を張っていてもどうにもならない」というのが正直なところでしょう。敵に回すのではなく味方につけなければいけません。今やSNSでの情報流通は雑誌など比較にならない量とそれに伴う力を持っているのです。

従来は書店の書棚が「プロモーション」の機能を担ってきた

 ではこれまでなぜ出版社は結果としてSNS経由を始めとしたWebマーケティングを軽視してきたのでしょうか。これは従来の出版の水平分業的業界構造に起因するところが大きいと考えます。
 従来出版社が印刷会社などに発注して製造された本は、これまで出版取次の流通システムを通じて全国の本屋に配送され、一定期間の店頭展示販売を経た上で回収されて断裁処分されていました。つまり書店での面陳や棚差しによって一定期間顧客の目に触れ、それによって商品が購入できる状態にあることが認知されて一定数の売り上げに繋がっていたわけです。書店による本との出会いの場の提供。これこそが従来型の「本の販売プロモーション」でした。
 もちろんそれ以外に、例えば書店での発売記念サイン会などのイベントや新聞などへの広告掲載はあったわけですが、あくまでスポット的な動きに止まっていたと思います。決して全ての本を対象にやれていたわけではありません。ウラを返せばざっくり言って出版社の仕事は従来「本を作って取次に引き渡すところまで」で、そこから先は取次、書店といった下流のネットワークによってプロモーション含む販売の仕組みが維持されてきたということになるでしょう。

 ただ、今はもう書店の床面積はどんどん減りつつあり、それに準じてプロモーションの機能も漸減していると見なければならない状態です参考。これが起きている直接的な原因は書籍と言うよりは雑誌の販売不振なのですが、とは言えこの状況が長く続けば「本を買って読む」習慣は失われ、書籍の売り上げも恒常的に減ることになっていくでしょう。いや、もうそうなっていると見た方が良いかもしれません。

書店の書棚の機能を補完するためのWebプロモーション

 書店の書棚面積は減りつつあり、今後も当面増加に転じることは無さそうです。これによって本が顧客の目に入って実際に購入される機会も減っていきます。これまでは書店に行って新刊の棚を適当に見渡し、面白そうな本があれば買って帰るというエコシステムによって維持されてきた売り上げが消えつつあるわけです。それがなくなればだいぶ酷いことにはなりそうなのは容易に想像がつきます。
 つまりそれを補完するためにこそSNS対策などのWebでの販売プロモーション対策が急務になって来ているわけです。書店の書棚で告知できなくなりつつあるのならば、他の手段で告知を補完してやらなければなりません。そして今最もコストをかけずに広く情報を広げる手段が「Web」なのは異論のないところでしょう。

 しかしこれは出版社の仕事ではあっても「編集者」の仕事ではなく、おそらく「営業」もしくは「広報」の仕事になると思います。しかも従来の出版社の営業部や広報部の仕事でもなく、全く新しいタイプの業務になりそうです。これは新聞のスポット広告対応などのB2B業務ではなく一般顧客向けのB2C的な業務の話になるためです。そこには従来存在しなかった部署を設置する経営判断が必要な難しさがあります。
 だからこそ長きにわたる水平分業体制の維持によってその機能を持つ必要がなかった出版社は対応が難しかったわけですが、とはいえもうそんなことも言っていられないのは前述の通りです。読者にしてみれば、「本が出ていることを知らなければ買うというアクションに移りようがない」わけですから。

SNSでの情報拡散タイミングは制御しづらいが・・・

 Facebook、TwitterなどのSNSで読者によって行われる本の情報拡散、紹介はそれが起こるタイミングを出版社側が厳密に制御することはとても難しいと思います。ただ、発生確率を上げることはできるでしょうし、拡散が起きた際にその効果を最大化する施策は打っておくべきでしょう。

 発生確率を上げるという意味ではソーシャルシェアのボタンを設置してあるかどうかは大きな差になりそうです。URLをコピーしてFaceBook等の投稿画面に貼り付けるという操作はそこまで難しいわけではもちろんありませんが、ソーシャルシェアボタンからの書き込みに比べれば多少なりとも面倒なのは事実です。そこには頻度の差がでてくるでしょう。
 さらに、公式ページ内で内容を簡単に確認してもらい、紹介する気を起こさせると言う意味で試し読みも大事です。これはいわば書店店頭での立ち読みの代替ですから、もっと普及すれば良いと考えます。

 また、拡散の効果を最大化する意味で、FaceBookやTwitterの投稿に書影写真が載るのは当然とても大きな意味があるでしょう。文章だけの簡単な紹介ではタイムライン上で目立ちませんのでさっくり流されて終わりになる場合がほとんどでしょうが、書影写真が入っていれば否応なしに目を引くのは間違いないと思います。

 その上で、いざ買おうという気になった際に簡単に販売ページに行き着ける作りになっていることも大事で、そういう意味で販売ストアへのリンクも必要でしょう。まあより料率の高いストアへの誘導という意味で自社サイトには直売ページへのリンクだけを貼るという考え方もあるでしょうし、必ずしも多数の販売ページにリンクさせることが正解とも限らないとは思いますが。

 さて、最後にちょっと電子書籍についても触れておきます。これまで、「電子版は出しても全く売れない、出す必要がない」という趣旨の意見を多く目にしてきました。実際特にエンタメ以外で数が全然出ていないことは間違いなく事実としてあるのでしょう。売れない原因はいろいろと考えられはしますし、品質がまだ低すぎるという話もありそうではあります。ただ、実は一番の原因は今回取り上げたことに通じる「電子版が出ていて買える状態にあることが読者に十分に伝わっていない」というところにあるような気がしてなりません。読者が存在を知らなければ購入というアクションが起こりようがありませんから。

 Amazonを初めとした販売ストアは商品を受け入れて購入可能な状態にはしてくれますし、読者側が商品名を知っていて検索して買う分にはとても便利です。しかし彼らは書店の書棚に相当するような潜在顧客へのプロモーション機能を持っていませんから、なにもしないで放っておいても(潜在的には買われる可能性があった)本が売れるわけではありません。そこは従来の書店とは決定的に違うのです。将来的にVR/ARなどによって仮想空間内で見渡せる面積が書店の書棚並みに広がり、各顧客に合わせて最適化されたリコメンデーションの技術がより発達すれば話は違ってくるかも知れません。ただ少なくとも今現在は「販売者側が読者に対して商品を認知させるアクションを取ることが必須」で、これをしなければ今は売れなくて当たり前です。
 出版社がこのあたりの役割を担えればもちろんよいのですがまだまだそういった意識は希薄なようで、「自らプロモーションができる著者でない限り電子は売れない」という話になってきているように思います。この状況が長く続けば必然的にそういった業務を著作に集中したい著者に代わって請け負う「エージェンシー」が登場してくることになるでしょうが、この先どうなってゆくのかしばらく注視が必要かなと思います。

(2018.6.7)

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Jun Tajima

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